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Destination Beside Precious

第4章 2.Only You Are Seen


「凛くん昨日もお参りしたんでしょ?どうする、今日もする?」
「あー俺はいい」
「うん、じゃあこの辺で待っててね」

石段を上り、凛には鳥居のそばで待っててもらって汐はひとりで鳥居をくぐり抜けた。
境内に入ってすぐ右手にあるのは手水舎。
参拝前に手や口を清める為のものだ。
柄杓で水をすくい左手、右手、口を清める。
最後に柄杓を縦にして柄を清めた。

柄杓を元の位置に戻して汐は神前に立った。
5円玉を賽銭箱に入れて鈴を鳴らした。
カランカランと乾いた音の後、二礼二拍手一礼でお参り。

その様子を後ろから眺めていた凛は感心してしまった。
昔祖母に神社のお参りの仕方を教えてもらったことがふと蘇る。
参拝には様々な作法がある、と言われたような記憶がある。
先ほどの汐の作法は、幼い記憶の中の祖母のそれと同じだった気がする。
寺社に参拝することの少なくなった今、作法がきちんと身についてる人はなかなかいない。
若い世代ならなおさらだ。
凛はまた新しい汐の魅力を見つけた思いだった。


「凛くんお待たせ」
「ああ」
行くぞ、と言って石段を降りていく。
すべて降りたところで凛は汐の手をとった。
それに応じて汐も凛の手を握った。

「何をお願いしたんだ?」
「えー…、言わなきゃだめ?」
「必勝祈願か?」
「…そんなかんじ」
汐は軽く目を伏せた。
水の神様、必勝祈願もそうだがもう1つ違うお願いごともした。
しかしそれは凛には言わない。
隠すつもりとかそういうわけではないが、言うつもりもなかった。


「ね、凛くん何から食べる?」
「…楽しそうだな」
食べ物の話題に切り替えた汐の瞳はきらきらしていた。
食べ物を前にするとはしゃぐ汐はとても無邪気で小さい子のようだと凛は思う。

「うん!やっぱ焼きカニ?かに爪フライ?カニ唐揚げもいいね!」
「全部食えばいいんじゃね?」
「えー、ひとりで?流石に太っちゃうよ」
「誰がひとりなんて言った?俺とふたりでに決まってんだろ」
凛がそう言うと汐は、出店制覇だね、と嬉しそうに凛に笑いかけた。

「ほら、カニが待ってんぞ」
汐の手を引き、出店が立ち並ぶ通りに向かおうとした時。

「凛」
「凛!」
不意に声をかけられた。
耳馴染みのある声だ。声だけでも誰かわかる。
声の主を確かめる。
やはり正解だった。

「ハル…それに真琴も」

そこにいたのは遙と真琴だった。
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