Destination Beside Precious
第4章 2.Only You Are Seen
「でも凛くん、そのカニの代償がそれだもんね」
汐はいたずらな笑みを浮かべながら繋いでいない方の手に目をやった。
その手には絆創膏が貼られている。
「うるせぇ。お前は笑ってるがあれマジで痛かったんだからな」
「カニを素手で掴み捕りしてたら挟まれて絆創膏とかほんと、なにかのコントみたい」
くすくすと笑ってる汐に非難の視線を向けつつ凛はふっと頬を緩める。
「姿茹でにしたら写真送ってあげるね」
「ああ。…って、お前が茹でるのか?」
「?そうだよ?」
さも当たり前のように言う汐に凛は内心驚く。
カニを丸茹でできる女子高生などいるのだろうか。
どこの料理人だよ、と凛は心の中でつっこんでしまう。
「…汐は料理できるんだな」
「んー、一応ね」
一応というが、親があまり家にいないため部活がない日や休日の食事は汐が作っていた。
夏貴がいれば一緒に作るためあまり苦に思ったことはなかったが。
「ふぅん。…食ってみてぇな」
エプロン姿の汐を想像すると思わず表情がゆるくなる。
エプロンを身につけてキッチンに立ってる汐を後ろから眺めるのはどんなに幸せな気分になるだろうか。
「じゃあ明日の朝作ってあげる」
「いいのか?」
「うん。冷蔵庫の中にあるものでしか作れないけどね」
「ぜんぜん。…楽しみだな」
むしろ冷蔵庫の中にあるものでさっと料理ができてしまうことはとてもすごいことだと思う。
まだ目の当たりにしていないが汐が家庭的な女の子だということはよくわかった。
「誰かのために作る料理とか久しぶりだからあたしも楽しみ」
自分の作った料理で誰かが笑顔になることは汐にとって、とても幸せなことだった。
自分まで幸せになるのだ。
だから汐は料理が好きだった。
それが好きな人だったらこれ以上に嬉しいことはないと汐は思う。
「じゃ、明日の朝は汐の料理の腕を拝見。ってことだな」
「がんばりまーす」
「楽しみにしてる。…ついたぞ」