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Destination Beside Precious

第4章 2.Only You Are Seen



珍しく賑わう岩鳶町の駅の改札を通り抜けた。
ほのかに潮の香のする風はひんやりと肌寒い。
冷たい風とは対照的にぼんやりと暖かな光で夜道を照らす提灯で彩られた通りを凛と汐は手を繋ぎながら歩いていた。

「あたし駅以外の岩鳶町初めて」
「ん、まあ特別な用事がなきゃ来ねぇよな」
風景は美しいが、ほかになにか見所があるかというと答えを濁してしまう。
住民の比率も高齢者の割合が高い。

「カニ祭りって八幡様の神社でやってるんだっけ?」
「ああ」
「あそこって確か水神様だよね?あたしお参りしていきたいな。いい?」
「いいぜ」
八幡様、またの名を水神様。
鮫柄水泳部は初夏と秋に必勝祈願として八幡様参りを慣行としている。


今日の凛は黒い七分丈のプリントTシャツにベージュのスキニーパンツをあわせたコーディネート。
アクセサリーはいつも通りシンプルなシルバーだった。

一方汐は、ネイビーのインナーに赤と黒のタータンチェックのシャツを重ね、ボトムには黒のレザーのミニスカートをあわせたコーディネート。
白地に3本のネイビーのラインが入ったクルーソックスにティンバーブーツを合わせている。
シャツの裾は結んでいた。

凛はシンプル、汐はカジュアルガーリーなコーディネートだった。


やがて2人は漁港に出た。
たくさんのカニつり漁船がつながれている。
静かに響く波の音、太鼓や篠笛響くお囃子、はしゃぐ子どもの笑い声、夜道を照らす提灯たちが祭りに華を添える。
街灯が少ないこともあり、提灯の灯りが夜道によく映えていた。

「お祭りなんていつぶりだろ」
「俺は昨日ぶり」
「〝ハル〟くんと勝負したんでしょ?」
うっ、と凛は気まずそうに眉を寄せる。
遙とカニ祭りで勝負していたのだが結局は引き分けのまま最終電車の時間になってしまい決着がつかなかったのである。

「朝起きたら宅配便が来て何かと思ったら凛くんからカニが届いてほんとにびっくりしたんだからねー」
「わ、悪かったな…」
遙との勝負の1つにカニっと掴み地獄というカニ掴み捕りがあった。
14匹も捕ったはいいが寮に14匹も持って帰ったら大変な事になるため、汐や実家、岩鳶町に住む祖母に配ったのである。

「あー全然いいよ!夏貴も喜んでたし!あのカニは近いうちに茹でて食べる予定だから」
「そ、そうか」
夏貴の喜んでいる顔が全く想像出来ない凛は曖昧に返す。
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