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Destination Beside Precious

第4章 2.Only You Are Seen


好きだから触れたい、好きだからもっとキスしたい。
それはごく自然な欲だ。
汐のことを好きだと、愛しいと思う以上はどう足掻いても抗うことのできない欲求。
抗うことが出来ないから凛は悩むのだ。
これからもずっと、長く付き合っていきたいと思っている。
その中で性行為は必ず通る道、本能がそれを求めるだろう。
その時はその時で情欲に身を任せるつもりである。

しかしまだその時ではないというのが凛の考えだった。


「凛は本当に汐ちゃんのことが大切なんだね」
「本気で好きなんだから当たり前だろ」
素直な気持ちを告白するくせに、真琴に向ける瞳は素直じゃない。
そんな凛に真琴は穏やかな笑顔を浮かべる。

こんなにも凛に想われている汐はとても幸せ者だと思う。
これだけ大切にしている人に対して自分本位な行動を凛はするだろうか。
そんなの答えは決まっている。

「こんなに大切にしてるんだから、もしそういう気分になっても凛は理性で抑えられると思うよ」
根拠は、と訊かれると答えを濁すことになるが真琴はそう思う。

「俺、そんな出来た男じゃねぇぜ…?」
「でも、凛は優しいから大丈夫だと思うよ」
「そうか?」
真琴の笑顔に先ほどの瞳とは対照的に凛は照れたような素振りを見せた。
照れくさそうに桜色に染まる頬に、凛の年相応な高校生の純情を見た。


(凛にも大切な人ができたんだね…)

込み上げるのは嬉しさ。
照れながら汐のことを話す凛が幸せそうで自分まで幸せな気分になる。
つい数ヶ月前の、苦しそうにしている凛の姿を知っているから尚更だ。
こうしてまた笑顔を取り戻すことができた背景に、かつての岩鳶SCの仲間との和解や過去のしがらみから解放されたことがあるのはもちろんだが、汐の存在も少なからずあるだろう。

真琴は汐に感謝した。


(汐ちゃん…)

会ったことの無い汐が凛のとなりで笑った気がする。


(ありがとう)

また、凛の笑顔を取り戻してくれて。
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