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Destination Beside Precious

第4章 2.Only You Are Seen


お泊り。
汐の家に、凛が、という意味だろうか。
普通に考えても状況と文脈から考えてもそれしかないのだが、凛は言葉を失う。

「は、や、え、お泊りって、俺が、お前んちに、か?」
「うん」
随分間抜けなことを訊いてしまったと凛は思った。

「え、だってお前、親は?」
「仕事でいないよ」
「弟...夏貴はいるだろ...?」
「夏貴もいないよ」

親もいない、弟の夏貴もいない。
つまり完璧に家に2人きりという状況だ。
勝手にデートだと思っていた凛はいろいろ飛び越えた展開に動揺を隠せない。

「あ、ごめんね。その、外泊がダメならダメでいいから」
「別にそうじゃねえよ。ただ、いきなりで驚いたっつーか...」
外泊なら外泊許可を取ればいいだけの話だ。
あっさりしているかと思ったら大胆な誘いをしてきて予想外だった、とは言えない。

「お前がいいなら、祭り終わった夜泊まってく」
「いいよ」
決まりだね、と汐は微笑んだ。
凛に向けられた赤紫の瞳ははしゃぐ子どものようにきらきらとしてした。


(こいつ、わかってんのか)

男を夜、しかも2人きりで女の家に泊まらせるということは普通どうなるかわかっているのだろうか。
凛は心の中でため息をついてしまう。
今のような純粋に瞳を輝かせる様子は凛がよく見る汐だ。
しかし時々、びっくりするくらい大人な姿をみせる時もある。
それにもうひとつ...。
考えていることが読めない。
しかしそれが汐の魅力のひとつでもあると凛は思う。


そうしているうちに駅に到着した。
改札口まで汐のことを送っていく。

「今日はありがとね」
「ん、俺も。さんきゅ」
汐の頭を軽く撫で、額にキスをした。

「じゃ、気ぃつけて帰れよ」
「うん。ありがと、じゃあね」
するり、と汐の手が凛の手から離れた。
改札を抜けて階段をのぼる汐の背を見送ると、凛は来た道を戻り出した。


駅構内を歩いていると見覚えのある姿が目に飛び込んだ。
ベージュのチノパンに鮮やかなグリーンのシャツがよく映えるコーディネートで足元はレザーのスニーカーでまとめている。
髪の毛はオリーブアッシュで背が高い。
たれ目と下がり気味の眉毛が人の良さそうな雰囲気を醸し出している。

「...真琴?」
凛の声にモデルのような彼が振り向いた。
凛の姿を見ると驚きと喜びが半分ずつ表れた笑顔を浮かべた。

「凛...!?」
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