Destination Beside Precious
第4章 2.Only You Are Seen
以前よりもほんの少し肌寒くなった夕焼け前の道を凛と汐は手を繋いで歩いていた。
「凛くんのおかけで明後日の数学Ⅱのテストなんとかなりそうだよ」
「そうか、そりゃよかった」
「鮫柄は中間いつなの?」
「お前が修学旅行行ってる週の次の週」
つまり中間テストまであと2週間と少しということになる。
1週間後にはテスト週間に入る。
テスト週間とテストを実施しているテスト期間あわせて2週間ほど部活が短くなったり休みになったり、凛からしたら物足りない2週間が続くことになる。
「なあ、汐」
「ん?」
「その、来週の日曜って、夜空いてるか?」
スピラノのテスト明け後の三連休の中日のことだ。
「部活は午前だし、うん、あいてるよ」
「なら、一緒に祭り行かねぇか?」
「お祭り?」
「岩鳶町で開催されてる秋祭りだ」
「あーそれってカニ祭り?行きたい!」
カニ祭りとは岩鳶町が秋に開催するカニづくしなお祭りのことだ。
近くにある神社は水神様を祀っており鮫柄水泳部も初夏と秋に1回ずつ必勝祈願に訪れている。
どうやら汐はカニ祭りの存在を知っていたようだ。
「じゃあ決まりだな」
繋いでいた手をきゅっ、とほんの少しだけ強く握る。
それに合わせて汐も握る手を少しだけ強くしてきた。
「ねぇ凛くん、お祭りの次の日って部活お休みだったりする?」
「テスト1週間前だから休みだ」
2日続けてデートをしたいのだろうか。
しかし自分は休みかもしれないが汐は修学旅行の前日だから忙しかったりしないかなど凛は考える。
「お休みなんだ!」
「嬉しそうだな。次の日もデートするか?」
こうやってだんだんと汐の方も積極的にデートに誘ってくれるようになってきてくれて凛は嬉しくなる。
馬鹿馬鹿しいかもしれないが、自分の〝好き〟が一方通行ではないことを実感することができるのだ。
平常心を装いつつ内心喜びを噛み締めてる凛だが、汐から発せられた次の言葉は思いもよらないものだった。
「ね、凛くん。よかったらお祭り終わった後あたしの家にお泊りしない?」