Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「…そう…、だよ…、ね…」
やっと思いで言葉を絞り出す。
期待なんてしていなかった。そう自分に言い聞かせても、まるで抉られたように凛の言葉が深々と胸に突き刺さる。
胸も息も苦しい。唇を噛み締めて、次の言葉を待つ。
手厳しい否定の言葉を受け止める覚悟は出来ていた。
だけど、否定はすれど嫌いにはならないで欲しかった。
凛にまで嫌われたら、と思うと足元から崩れ落ちそうな絶望感に支配される。
わずかな沈黙が、汐には永遠のように思えた。
しかし、覚悟していた現実はそこまで汐を絶望の淵に叩き落とすことはしなかった。
俯き震える汐を、凛は強く抱きしめた。
「理解出来ねぇよ…。なんで…っ、汐が、そんな思いしなくちゃならねぇのか…」
凛の声も震えていた。
抑えきれない感情を必死に堪えてるような、そんな声だった。
「どうして…凛くんが泣いてるの…?」
汐にも理解が出来なかった。何故自分ではなく凛が泣いているのか。
顔を上げた汐の瞳に飛び込んだのは、両の瞳からぼろぼろ涙を流す凛。
上擦る声、紅く染まる顔と眦。ひとつ、ふたつと溢れて止まらない涙。
「今まで気づけなくて、ごめんな…」
頬を伝う温かなしずくが落ちて、凛の服へ滲んで解けてゆく。
その様子を静かに見つめていた。
やがて汐は朝焼けの瞳を揺らしながら、謝る凛に首を横に振った。
「言わなったのはあたしだから…、凛くんが謝ることじゃない」
感情を素直に表現する凛の姿に、心の中の黒い渦が雪がれるような気がした。
反面、自分もそう出来たら楽だったのかもしれないと思ってしまった。
言わなかったのは自分の方だと宥める汐に、凛は更に胸を締め付けられた。
無知は罪だ。
そんなつもりは微塵もなくても、凛が発した何気ない言葉の中にもきっと汐を傷つけたものがあっただろう。
どれだけつらかったか、どれだけ悲しかったか。
でもそれらをすべて心の内にひた隠しにして今まで汐は気丈に振舞っていた。
これまで味わってきたであろう汐の寂しさや苦しみを思うと、凛は涙が止まらなかった。
「…っ!ぅ…」
「凛くん、泣かないで…」
噛み締めた歯の奥から嗚咽を洩らす凛の頬を両手で包み込み、汐はそっと涙を拭った。
たまらず凛は再び汐を思い切り抱きしめた。
背に回された汐の腕の頼りなさに、今の今までとても大切なものを見誤っていたことに凛は気付かされた。