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Destination Beside Precious

第15章 12.Masked Family


「じゃあ、あたしの居場所はどこなんだろう…。泣いても笑っても、お母さんは自分の仕事、お父さんは跡継ぎにしか興味がないのに…」

見てもらえなかった音楽コンクールの賞状、真っ白の進路希望調査票。

息をするのもやっとなくらい胸が苦しい。心臓の音がうるさい。鼻の奥がつんとする。
こういう時に出てくるはずのものは遠い過去に置いてきたというのに、絞り出した声は震えていた。

「あたしは、きっとひとりぼっちだ…」

言葉にすると否応なしに自覚してしまう。

自分は、愛されてこなかったのだと。

震えた声はとても小さく、そのまま消えて無くなってしまいそうだった。
いや、そのまま消えて無くなってしまいたかった。

親に愛されてきた凛と、そうではない自分。

比べると、どうしようもなく惨めになる。
そして惨めだと思う自分も嫌だった。
筆舌に尽くし難い劣等感と自己嫌悪に苛まれながら、続きを話すべく大きく息を吸った。
平常心を装うそばで、無意識に服の裾を強く握っていた。

「うちは、榊宮っていう名前でしか繋がっていない仮面家族なの。凛くんには、理解出来ないかもしれないけど…。厚かましいお願いだとは分かってる。分かってるけど…、凛くんは…あたしのこと、嫌いにならないで…」

凛が家族をとても大切に思っていることはよく知っていた。
だからこそこんな話は口が裂けても出来なかったのに、すべて話してしまった。

そして話しながら気づいた。
隠している方が凛の為だと思っていたが、本当は自分の為だった。
自分の中ではもう諦めたこととラベリングしていた。
しかしそれは諦めた〝つもり〟でしかなかった。
仮面家族であるという現実と、自分の気持ちから目を背けていただけだった。
向き合うことがこの上なく怖かったのだ。

それと同じくらい、凛には理解出来ないということを突きつけられるのが怖い。
凛との間に線引きをするようなことを言ったのは自分なのに、嫌いにならないでほしいと請うのはどうかしていると思った。
すごく厚かましい。こんなあたしだけど受け入れてと言っているようなものだ。

全て話して、どうしようもなく弱い自分に邂逅することとなった。
俯いたまま、凛の顔を見ることが出来ない。

「ああ、理解出来ねぇよ」

凛の口から出てきた言葉は、残酷だった。
覚悟していたはずなのに、目の前が真っ暗になる気分だった。
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