Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「夏貴みたいにピアノの才能があったり、競泳で結果を残したりしてたら違っていたのかもしれないけど…。あたしには人に誇れるものはない。どれもこれも、中途半端」
暗にずっと夏貴と比べられてきたという告白。
夏貴がピアノを始めたのは、唯一自分に関心を持ってくれる姉である汐と一緒に弾きたかったからだった。
夏貴の上達は目を見張るものがあり、いつしか楽しそうに弾きながらも輝かしい結果を残す弟に幼いながらも引け目を感じることが増えた。
出来が良いと褒められ続けてきた弟。そして今も、ピアノだけでなく競泳でも結果を残している。
姉としてとても誇らしいと思う。しかしそう思う反面自分には何も無いことを痛感させられる。
「こんなに中途半端なのに、医者になれなんて笑っちゃうよね。そんなに頭良くないよ?あたし。…それに、あたしには、人の命を預かる仕事なんて、出来ない…。あたしは榊宮家が望むような人間には、なれない…。」
海子を喪ってから、そしてこれからも変わらないであろう事実。
自分には人の命を預かることは出来ない。
しかし榊宮家が望むのは、優秀な跡継ぎ。
それになれなければ、榊宮での存在価値は無いに等しい。
ならばせめてもと思い、ある感情を心の奥深くに閉じ込めた。
「だからせめて、いい子でいようと思ったの。そうすれば叱られることも疎まれることも無いから。いつも笑顔で弱音を吐かない汐でいれば、きっとあたしを見てくれるって思ったんだけど…なにも変わらなかった」
表面上の会話は増えたかもしれないが、関心が向けられているとは感じることが出来なかった。
泣こうが笑おうが、とどのつまり無関心には変わりなかった。
だから、諦めた。なにをしても変わらない。
好意や愛の対極が〝無関心〟であることを思い知った。
「家族のことどう思ってるって言ってたね。娘のあたしがいうのもなんだけど、榊宮家は金銭的には恵まれていて裕福だと思う。それには感謝してる。この気持ちは嘘じゃない」
自分や夏貴が私立の学校に通えていることやお金や暮らしに不自由していないのは、両親のおかげだということは理解しているし感謝もしている。
「けど、みんなが当たり前だと思ってる幸せはお金では買えない」
その感謝だけですべてを呑み込むことが出来るほど、汐も夏貴も大人ではなかった。
親からの無償の愛は、お金では買えないのだ。