Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「…悪い」
返す言葉も無いと言わんばかりに落ち込む凛を安心させるように汐は両手で凛の頬を包み込んだ。
「ああ、凛くん、謝らないで。いつかちゃんと話そうと思ってたの。…それが今日になっただけ」
支えたい、守りたいと思うのに、優しさに守られているのは自分の方ではないか。
涙が出そうなくらい情けないが、目に力を入れてそれを堪える。
やっと汐が心の内を話してくれる。早く汐の心を解放してやりたい。
「小さい頃にお父さんを亡くしてる凛くんにこういうことを言うのはどうかと思うんだけどね…」
汐は薄く笑っていた。笑っていたのに泣いていた。
あと何回この悲しい笑顔を浮かべさせることになるのだろう。
「ごめんね、あたし、自分の家族、好きじゃないんだ」
やはり、真実はひどく残酷だった。
夏貴と璃保と宗介が話していたことがすべて証明された。
予め聞いていて分かっていたはずなのに、それでも凛は愕然とした。
これまでの自分を回顧するように汐は静かに淡々と語り出した。
凛を見つめて、そして逸らした瞳はやはりどこか達観していた。
「凛くんも知ってる通り、あたしの家…榊宮は代々医者の家系でお祖父様とお父さんは医者。お母さんは大学の准教授。お父さんは仕事の関係で前住んでたとこに残ったからほぼ会ってないし、お母さんも仕事で家にいないなんて日常茶飯事。会話はおろかお盆もお正月も家族が揃うなんて滅多にない。だからあたしは夏貴以外の家族とは疎遠なんだよね」
ここまでは夏貴が言っていた通りだ。
家族にはそれぞれの在り方があるが、榊宮家が家族というには関心と会話が極端に足りなかった。
それは今も変わらず、両親とその子ども達である汐と夏貴の間には簡単には修復出来ない亀裂が入ったままだった。
歩み寄ろうにもその溝が深すぎて難しい。
「そんな医者の家系に生まれたからか、小さい頃からずっと医者になれって言われ続けてきた。…そこにあたしの意思は関係無い。あたしを〝汐〟じゃなくて、〝榊宮家の人間〟としか見てない。みんな、みんな、あたしには無関心だった」
眠っている間に見た夢を思い出した。夢と言うよりあれは幼い頃の自分の記憶だ。
楽しんでやっていたはずの音楽も、いつしか両親の気を引くために頑張るという姿勢に変わっていった。
そうまでしても結果は変わらなかった。父親も母親も自分を見てはくれなかった。