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Destination Beside Precious

第15章 12.Masked Family


再びベッドに横になると、凛は起こさないようにそっと汐の顔にかかる髪を払った。

穏やかに眠る汐は笑顔を浮かべているようにも見える。
無垢で、無防備で、綺麗な寝顔だった。

その顔を見つめていると、自身の不甲斐なさに押し潰されそうだった胸に温かな感情が流れ込んだ。


安心しきったように眠る汐に柔らかな笑みを向け、凛はこれまでの自分を振り返る。

好きだ好きだと、今までは汐の良い面にしか目を向けて来なかった。
どこかで汐の心の闇を薄々感じていたが、踏み込むのが怖かったのかもしれない。
盲目というのはこういうことか、あれは、恋だ。

昨年の地方大会前、悩んでいた凛は衝突することもあったが、それでも汐に支えられていた。
そして今も、岩鳶や鮫柄の仲間がいてくれるのと同じくらい汐に支えられている。
自分も、汐にとってそういう存在でありたい。汐を支えたい。

嬉しいことがあったらふたりで喜び、腹が立ったら気が済むまで話し、悲しみに打ちひしがれていたらそっと胸を貸し心を温め、楽しいと思ったら一緒に笑い合いたい。
汐の心の居場所になりたい。笑顔でいてほしい。
泣くことがあるのならば、ひとりぼっちで泣かずに自分の前で泣いて欲しい。
そうしてくれれば、涙にキスをして頬を包み込み悲しみごと汐を抱きしめてあげられる。

出会ってから今まで、汐と過ごす時間はいつだって心が凪いで幸せだった。
自分がそうであるように、汐もそうであってほしい。

夏貴や璃保に言われるまで気づけなかったが、汐の負の面と向き合う機会が出来た。
どんな感情を吐露されても、それを受け容れよう。
自分に話すことで、汐も自身の気持ちと向き合って欲しい。
それがひとりでは抱えきれない重荷であるのなら、傍で支えて一緒に抱えてあげたい。凛はそう思う。
胸に広がるこの確かで温かな感情、これは、愛だ。


すやすやと無防備に眠る汐の額に唇を寄せた。
優しく抱きしめ、麗らかな春の朝陽とたゆたう枝垂れ桜の前で交わしたあの約束を、今度は凛が語りかけるように呟いた。
すべてを包み込む、慈しみに満ちた笑顔を添えて。

「大丈夫だ、汐…。約束しただろ?俺はずっと傍にいるし、なにがあったって汐の味方だ…」

汐はもう十分ひとりで頑張った。だからもうひとりで頑張らなくてもいい。

寄り添い、守りたい。そう思った。それが凛の導き出した答えだった。
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