Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
体力に自信のある凛でも、流石にあの状態で一戦交えると睡魔は限界を突破した。
汐が大胆に迫ってきてその時は眠気が飛んだとして、乱れた服を整えて汐にキスをすると同時に凛は倒れるように眠りについた。
どれくらい眠っていたのだろう。
「ん…」
目を覚ました凛はゆっくりと上体を起こすと、前髪をくしゃりと掻き上げた。
この身体の重さは寝起きだからか、それとも午前の練習の疲労と睡眠不足を感じながらも求められるまま激しく汐を抱いたからか。
どちらにせよ、情事の後特有の纏わりつくような甘く気だるい空気がそれに拍車を掛ける。
窓の外を見つめ、目を細める。まだ陽が高くて明るい。
案外長く寝過ぎなかったようで安心した。
(なんだか、すげぇよく寝た気がする…)
運動後の昼寝ほど至福なものは無いだろう。
身体は少し重たいが、ぐっすりと深い睡眠をとったからか頭の中はすっきりしていた。
隣ではすやすやと汐が穏やかな寝息を立てていた。
眠る汐の手に、自分の手を重ねた。
すっぽり収まってしまう、小さな、女の子の手だ。
想いを通わせた時に、これからずっと握って離さないと誓った手だ。
凛の瞳がつらく揺れる。
こんなに小さな手をしている汐が、この手から溢れるほどの悲しみを味わってきたのは知っていた。
しかしそれが自分の知る話よりもずっと前からだったとは露にも思っていなかった。
そして恐らく、いや、夏貴達の話からして間違いなく、それは今も続いている。
手からはとうに溢れ、抱えきれなくなったそれは汐の心を閉ざすのには十分過ぎた。
助けてと声を上げないのは、汐自身がそれに気づいていないのか。それとも諦めているのか。どちらなのかは判断つかない。
あの哀愁と諦観に気づいていながらも理由がわからず追求しなかった。つまり、出会ってから今まで見て見ぬ振りをし続けていた。
やはり、自分は汐のことを知っているようで知らない。榊宮汐という人物を表面でしか見ていなかったのかもしれない。
どうしようもなく情けなくて、思わず握る手に力が入りそうになるのを凛は堪える。
この小さな手に、自分は今まで支えられてばかりだ。
笑顔と共存するかのようにどこか達観したような雰囲気を持つ汐が、もうこれ以上大きな悲しみを手にすることがないように。凛はそう願った。しかし、願うだけでは意味が無いと思い知った。