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Destination Beside Precious

第15章 12.Masked Family


「お邪魔します」
汐と一緒に榊宮邸に帰宅した凛はひとことそう言って靴を脱いだ。
相変わらず広い玄関だ。それにいつ来ても靴が1足も出ていない。靴を置くことを思わず躊躇ってしまう。

案内されるまま、汐の自室に通された。

「お茶用意してくるからちょっと待っててね」
荷物を置いた汐は扉の傍で振り向き微笑むと、部屋を出た。

ひとり残った凛はベッドの傍へ腰を下ろす。


(こんなに広い家に汐はひとりなのか…)

夏貴の〝ひとりぼっちで〟という言葉が蘇る。
昨日の汐の寂しそうな様子はふたりの時間を取れていなかったからだと思っていたが、それだけではないことにようやく気がついた。


(そりゃ、寂しいよな…)

天井を見上げ、目を瞑る。

ひとたび意識すればその異常さに気づくのはすぐだった。
家全体が、夏貴の言っていたことを表しているかのようだった。
外から見ればとても洗練されていて美しいのに、中に入ってみればがらんとしていてひどく空虚で、いわばからっぽ。

汐本人が榊宮家に対してどう思っているのかはまだ聞けていない。
しかしそれは聞いていいことなのか。
もしかしたら自分は汐のプライバシーを土足で踏み荒らそうとしているのかもしれない。
その考えが凛をより迷わせる。
誰よりも何よりも汐が大切だ。だからこそ傷つけるようなことはしたくない。

ぐるぐる、ぐるぐると考えが渦を巻き、答えが出ない。
よく眠れなかったせいもあって、思考が鈍くなっている。


凛が一旦考えることをよそうと思ったのと同時に汐は戻ってきた。

「凛くんお待たせ。…あ、ごめん起こしちゃったかな?」
天井を見つめて目を瞑っていたから、汐は凛が寝ていたと思ったらしい。

「いや、起こしてねぇよ」
「そうなの?ならよかったけど…」
グラスが2つ載ったトレイをテーブルに置いた汐は凛の隣に座った。
浮かない顔をした凛を見つめると、汐は心配そうな表情をした。

「よっぽど眠れなかったみたいだね。大丈夫?」
そう言いながら汐はまた凛の目元を優しくなぞった。
いつも以上に汐の優しさが胸に沁みた。苦しいくらいに。
そっと、凛は汐を抱きしめた。


(もっと、本当のことを言ってくれよ…)

自分ではなく、人の心配ばかり。
汐は優しい。優しいが、自分の痛みに無頓着にはなっていないか。
痛ければ痛いと、苦しいのなら苦しいと言って欲しい。
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