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Destination Beside Precious

第15章 12.Masked Family


「愛着障害…」

凛がこぼした言葉と共に3人は揃って目を逸らした。
目は口ほどに物を言う。十分すぎる肯定だった。
目の前が真っ暗になるような気分だった。

「お前ら、知ってたのか、全部…」

愛着障害。
幼少期に親などの養育者から十分な愛情を受けられなかったが為に起こる、アイデンティティの揺らぎや心の不安定さを指す。

これで全て繋がった。
過去に汐が空っぽな恋愛を繰り返してきたのは、それまで汐を無条件に愛してくれていた海子を喪ったことにより心の居場所をなくしたからだ。愛されたい必要とされたいと、心が悲鳴をあげていたからだった。

「何で教えてくれなかったんだ」
責めてもどうしようもないのに、言わずにはいられなかった。
璃保も、宗介も、夏貴もわかっていたはずだ。
もっと早く知ることが出来ていれば、もっと何か出来たはずだ。
しかしその何かは、情けないことにまだ分からない。

「汐がそれを望まないからよ」
とても静かな声だった。
だからといって放っておくのかと、思わず反論しそうになった凛は口を噤む。

美しいサファイアのようなロイヤルブルーの璃保の瞳が、後悔と悔しさで揺れていた。
璃保は誰よりも汐を理解している。その上で言わないという判断をしたのだから、きっとこれが最善だったのだろう。
凛は唇を噛み、自分の無力さを呪った。


「あ!みんなここにいたんだ」

重たい空気が流れていたところへ、それとは正反対の軽やかな明るい声が掛けられた。
振り向くと、帰り支度を済ませた汐が立っていた。

「もー待ってても凛くん全然来ないから鮫柄のところまで迎えに行ったんだけどそこにもいないし、探したんだからねー」
不満げに唇を尖らせながら汐は歩み寄る。
そして凛の顔を見て眉を下げた。

「朝も思ったけど、やっぱ凛くんくまが出来てる。大丈夫?昨夜眠れなかったの?」
そう言って凛の目元をなぞる汐。体調を心配してくれている。
胸の奥が何者かに握り潰されたように苦しい。
もっと自分のことを心配してくれよと、堪らず凛はその場で思いきり汐を抱きしめた。

「えっ…、ちょ、凛くん、みんな見てる…」
凛の胸中を知る由もない汐は、いきなり抱きしめられて顔を赤くする。


汐を抱きしめる凛を見つめながら、宗介は璃保と夏貴にそっと言った。

〝理解することは出来なくても、凛が寄り添うことに意味がある〟
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