Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「悪かったって…。そこまで言わなくてもいいじゃねえか。つか、誰が変態だ」
悪趣味だの、変態だの、3人から集中砲火を浴びた凛は文句を言いながら頭を搔いた。
普段であれば誰かひとりは凛の言葉になにか言うのだが、この時は誰も何も言わなかった。
4人を取り巻く空気が重く淀んでいる。息が詰まりそうだった。
何か言わなければ、そう凛が考えていた矢先、璃保が重々しく口を開いた。
「汐と夏貴、同じ親の子なのにどうして夏貴だけが自分の思っていることをはっきり言えるかわかる?」
璃保の言う通り、自分の意見をぶつけることが苦手な汐に対して、夏貴は思ったことは率直に言うし凛に対してはいつも歯に衣着せぬ物言いでつっかかってくる。
顔はよく似ているのに性格は真逆だと思ったこともある。
「それは…そもそも性格が違うからだろ」
考えても、それしか浮かばなかった。しかしそれ以外の何かがあるから璃保は訊いてきたのだろう。
「それもそうね。けど、決定的に違うことがあるわ」
性格以外で決定的に違うこと。
それはきっとふたりの思考回路や深層心理の類なのだろうが、凛の中ですぐに答えは出なかった。
そこへ夏貴は昨夜の話の補足をするかのように静かに語りだした。
「榊宮は外面ばかりを取り繕う家だ。表での粗相は絶対に許されない。まあ、簡単に言えば僕達は常に〝いい子〟でいるように厳しく教え込まれてきた。美しく、いい子でいなければ、榊宮に居場所はなかった。特に姉さんはそれについて徹底されていた。僕とは違って人見知りをしない上に小さい頃からお人形さんと喩えられるくらい容姿に恵まれていたから、外面を良く見せる為によく連れ出されていた」
つまりそれは、いい子でいる為に感情を抑え込んで自分を作り上げ、条件付きの愛情しか与えられなかった上にアクセサリーのように扱われていたということだ。
「幼少期をそう過ごしてきた汐の夏貴とは違うところ。あの子は、人から嫌われること…必要とされなくなることを極端に恐れるの」
凛くんに嫌われるのが怖くて、と声を震わせながら言う汐を思い出し、凛は愕然とする。
愛情への飢餓。親の無関心。感情の抑制。人から必要とされなくなることを極端に恐れる。
昔、メンタルに関連する本の中で見かけたワードだ。
パズルのピースがひとつずつ揃い、組み合わさり、やがてひとつの言葉となって凛の口をついて出た。