Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
難しい、宗介はそう洩らした。
何故宗介はそう言うのだろう。凛は息を潜めて聞き耳を立てる。
「どういうことよ」
夏貴を庇うように璃保は宗介に問いただす。
並の人なら聞いただけで萎縮し黙り込んでしまいそうな、有無を言わせない迫る声音だった。
それに臆することなく、表情を変えずに宗介は語りだした。
「夏貴が凛に話したことが間違いだったって言いたいんじゃねぇ。汐は絶対に言わないだろうからな。夏貴が言ってなきゃ凛は多分この先も知らないままだっただろう。ただ、こう言っちゃ悪いが、凛が今まで過ごしてきた家庭環境は汐と夏貴…榊宮とは正反対だ。…あいつはいつだって母親やばあちゃんに愛されてきた。ガキの頃から知ってる俺が言うんだ。これは間違いねぇ」
「だからあいつが、お前たちの気持ちを理解するってのは正直難しいと思う」
陰で聞きながら凛はひとり眉を寄せ拳を握りしめた。
悔しいが、宗介の言う通りだ。
昨夜だって夏貴に〝親に当たり前に愛されることがどれだけ幸せかなんて分からないだろ〟と言われた時に何も言えなかったのだから。
「だが、それでも凛は汐の…お前達の為になにかしたいって思うだろうな」
無表情で淡々と話していた宗介は、そう言うと僅かに笑みを浮かべた。
一時は絶望的な表情を浮かべていた夏貴も宗介の言葉に、そうですね、と静かに微笑んだ。
「…そろそろいいかしら」
緊張しきった雰囲気が少しだけ和らいだところへ、璃保が声を上げた。
そして、3人から死角となる方向…凛が隠れて話を聞いていた方へ向かって大きな声で呼びかけた。
「凛!盗み聞きなんて趣味悪いわね。そんなところでコソコソしてないでアンタもこっちに来なさい」
間違いなく自分に対して掛けられた声に、思わず凛の肩が大きく上下した。
隠れて聞いていたことが璃保には気づかれていた。
物凄く気まずい思いを抱きながら、凛は3人の前に姿を現す。
気づいていたのなら最初から呼んでくれてもよかったのでは、というのが正直な気持ちであるが、盗み聞きと言われるようなことをしていた自分に非がある為凛は何も言わなかった。
「盗み聞きなんて悪趣味ですね。変態ですか」
「そうだな」
昨夜の落ち込んだ様子が嘘のように悪態をつく夏貴とそれに同調する宗介。
こっそり聞いていただけなのに散々な言われようだ。
いや、こっそり聞いていたからこの言われようなのか。