Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
翌日。合同練習を終えた凛は汐を迎えに行くべく廊下を歩いていた。
くあ…と空気を食んだ凛の目尻にうっすらと涙が浮かぶ。
昨夜聞いた夏貴の話が頭から離れず、よく眠れなかった。
寝ようとして目を瞑ると、自分の心臓の音が煩いくらい響いて仕方がなかった。何度も何度も汐のもの悲しそうな笑顔が浮かんでは消えた。
そうしてなかなか寝付けない夜を過ごしていたら、朝起きた時に目の下にくまが出来ていて似鳥に心配された。
それだけ、凛にとっては衝撃が大きかったのだ。
〝仮面家族〟
その言葉とは無縁の環境で育った凛だから、その実態が全く想像出来ない。
しかしもっとよく考えていれば、汐の苦しみに気づいてあげるタイミングは沢山あったはずだ。
家族のことを全く話さない…話したがらない、母親と話した時に感じた違和感、それに今思えば汐の家に行く時はいつだって誰もいなかった。
誰よりも汐のことを愛していて大切にしているという自負はある。それなのにこうも不甲斐なくては、本当に自分は汐の恋人でいていいのかとついマイナスな方へ思考が寄ってしまう。
「はぁ…」
らしくない大きな溜息をついたところで、凛は足を止めた。
角を曲がった先で誰かが話している。
馴染みのある声が3つ。璃保と宗介と夏貴だった。
「あら、夏貴。久しぶりじゃない。しばらく会わない間に背が伸びたわね。それにまた美しくなって」
「璃保さんこそ、相変わらずお綺麗で」
「昔みたいに〝りーちゃん〟って呼んでくれてもいいのよ」
「からかわないでください…」
浮かべた笑みを意地の悪いものに変えて揶揄う璃保と焦って顔を赤くする夏貴。
凛に対してはいつも小憎たらしい態度を取る彼も女王様には敵わないようだ。
「璃保、その辺にしとけ」
「もう、つれないわね。…で、なんの用かしら」
一言で璃保を窘めた。寡黙な宗介はいつだって璃保のストッパーなのだろう。
つまらなさそうに肩を竦めると、璃保は夏貴に本題を話すよう促した。
「お二人でいるところへ声をかけるなんて無粋なことをしてすみません。…僕は昨日、凛さんにあのことを話しました」
あのこと。榊宮家のことで間違いない。
この場で話すということは、宗介も一部始終を知っているのだろう。
「…そう。…夏貴の判断は間違ってなかったと思うわ」
「悪いが俺は…、凛の性格と生い立ちを考えると難しいと思う」