• テキストサイズ

Destination Beside Precious

第15章 12.Masked Family



合同練習1日目が終わった日の夜。
時刻は22:30を過ぎた頃。凛はひとり寮の廊下を歩いていた。

鮫柄の寮では夕食や入浴を終え、各々個人の時間を過ごしている時間帯だ。
勉強、テレビ、ゲームなど夜の時間の過ごし方は人それぞれだが、最近は皆部屋替えの荷造りを進めているのか夜になっても騒がしい。

同室の似鳥も荷造りに追われていた。
既に荷造りを大方終えた凛は、ここ数日その様子を毎日見ていた。
物が多い上に片付けが苦手な似鳥は、終わらないと叫びながらとうとう凛に泣きついてきた。
そんな似鳥を宥めつつ、今更だがまずは要らないものを捨てるよう助言をして部屋を出た。
あのまま部屋にいたら片付けの手際の悪さに痺れを切らし、何から何までやってしまう自分が想像出来て凛は苦笑する。


(寝るにはまだ少し早ぇし、汐に電話でもするかな…)

昼間も思ったのだが、最近汐との時間をとることが出来ていない。
部長に就任してから忙しない毎日を送る凛に対して気を遣ってくれているのか口に出しては言わないが、やっぱり寂しいのだろう。
あの場で抱きついてきたこと、凛くん不足ですと言っていたときの表情が凛の中でそれを裏付ける。

新しい部屋割りを考えるのも部長の仕事だった。
自分の荷造りも含めて部屋替えの準備もほぼ済んだから、これからは今まで通りちゃんと汐との時間も大切にしよう。そんなことを考えながら携帯を取りに部屋へ戻っていると、ふと正面から人の気配を感じて顔を上げた。

「おう、夏貴」

正面からやってきたのは汐の弟、夕陽の少年。
凛の呼び掛けに夏貴も顔を上げた。

「…お疲れ様です」
そう言った声はいつも以上に静かだ。
昏い宵闇をいっぱいに吸い込んだ夕陽の瞳を一瞬だけ凛に向けると、再び夏貴は視線を落とす。
そしてそれ以上何も言わずに通り過ぎていった。


(…、どうした…?)

ある違和感を感じて、思わず凛は足を止め振り返った。

普段の夏貴であれば、凛を目撃すると十中八九憎まれ口のひとつやふたつをこぼす。
それなのに、まともに目も合わせず立ち去ったのは初めてだ。
一瞬だけ見えた表情が、汐のそれと重なった。
つくづく顔のよく似た姉弟だ。しかし、夏貴の方が幾分わかり易い。

あれだけ堂々としていて美しく、時に尊大にも思える夏貴であるが、今は立ち去る背中がとても小さく頼りなく見えた。
/ 322ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp