Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
午前のみの合同練習の1日目を終えていち早く帰り支度を終えた汐は、明日の打ち合わせをすべく凛を探していた。
練習内容の打ち合わせは本来部長同士が行うのだが、凛と汐が付き合っていることを踏まえるとふたりのほうが話が早いという理由で璃保から任されたのだ。
凛くんどこかな、と通路を歩いていると少し先に橙の髪をした賑やかな少年が他の部員と騒いでいる姿を見つけた。
あの様子からして1年と2年だろうか。
(あの子、確かスプラッシュフェスでバック泳いでた…)
その少年は汐の気配に気づくと何やら目を輝かせてこちらへ走ってきた。
彼がめがけた人物が汐だということに気づいた後ろの部員達は物凄く焦った様子で制止する。
「ちょ…っ!御子柴っ!その人は1番話しかけやすい人だけど…っ!」
「1番変な絡みをしたらまずい人だって…っ!」
先輩の言葉をもろともせず、彼は汐の目の前までやってくると手を握った。
「一目見た時から思ってたんすけど…先輩…かわうぃね…!」
「えっ?あ、ありがとう…?」
突然手を握られ、可愛いと褒められた。
状況が上手く呑み込めず、語尾に疑問符がついてしまった。
「俺の名前は御子柴百太郎!専門はバック!誕生日は…」
手を握ったまま一息に自己紹介をする百太郎。
生き生きと輝かせる瞳に汐は圧倒され、苦笑しながらそれを聞く。
「やばい、部長に見つかったら殺される…っ!」
何とかしなければ、と慌てる部員に後ろから今1番来られてはまずい人物が声をかけた。
「なに騒いでんだ?」
「あー、凛くん!それに夏貴も!」
「ぶっ…!部長…!これは…」
百太郎を止めようとした2年の部員達の顔が一気に青ざめる。まるで鬼でも見たような怯え具合だ。
声をかけただけなのに何故こんなに怯えられるのかと訝しんだ凛だったが、すぐにその理由を理解した。
昨日入部したばかりの百太郎が汐の手を握っている。
おおかた一昨日江に対してしたことと同じことをしたのだろう。
百太郎を諌めようと一歩踏み出そうとする凛。
それよりも先に隣の少年が大股でふたりに近寄った。
そして百太郎の首根っこを掴むと強引に汐から引き剥がした。
「僕の姉さんに気安く触れないでくれるかな」
凛が牽制する前に夏貴が割って入った。
瞳も声も冷えきっている。その様子は般若そのものだった。
久々に夏貴の絶対零度を見たと凛は思った。