Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「そうだ、これ、よかったらみんなで食べて」
手に持っていた紙袋を渚に渡した。
「わぁ!汐ちゃんありがとう!ねぇねぇ聞いて!汐ちゃんから差し入れもらったよー!」
汐から差し入れを受け取ると、渚は無邪気な笑顔で遙や真琴、怜に見せた。
「汐さん、お気遣いありがとうございます!」
「ほんと、汐ちゃんありがとう!」
「…さんきゅ」
口々に感謝の言葉を伝える岩鳶メンバー。
紙袋から中身を取り出して、嬉しそうに分け合っている。
差し入れはレモンマドレーヌだった。
「汐、悪いな」
「夏貴が帰ってくるのが嬉しくってつい張り切っちゃってね、そうしたら焼きすぎたの…。凛くんたちの分もあるよ」
恥ずかしそうに言いながら汐は凛にも紙袋を渡した。
「おーさんきゅ。…やけに手の込んだラッピングだな」
紙袋からひとつ取り出して凛は呟いた。
結ばれた袋のギャザーが非常に美しい。
口を結ぶリボンも2色使われている上にカールもかけられている。
「あーそれね、全部夏貴がやってくれたの。可愛いよねー!」
「手先が器用なんだな」
夏貴がピアノの名手であることを凛は思い出した。
ピアノは演奏に指先の繊細な動きが求められるから、きっとこれくらいは朝飯前だと言いそうだ。
「ちなみに普通のマドレーヌの予定だったんだけど、レモンマドレーヌにしようって提案してくれたのも夏貴だよ。これなら甘すぎないから凛くんでも食べれるだろうって」
焼き菓子であるが甘すぎず、これなら甘いものが好きなメンバーはもちろん、甘いものが苦手な凛でも食べられるだろうと言っていた。
凛のことまで気遣ってくれてありがとうと伝えると、せっかく作ったお菓子を嫌々食べられるのは癪だと言ってそっぽ向いていたが。
「汐ちゃん!これすっごい美味しい!汐ちゃんが作ったの!?」
夏貴の話をしていた所へ渚が声を掛けた。
早速差し入れを食べてくれていて、大きく頬が膨らんでいる。
「ありがとう!弟と一緒に作ったの」
「渚くん!食べるか喋るかどっちかにしてください!行儀が悪いですよ!」
「はぁい」
怜に叱られた渚は口の中の物を飲み込むと、話を続けた。
「汐ちゃん弟いたの?」
「うん。今日一緒に来たの。あっちにいるよ」
「ほんと!?会ってみたい!」
「わかったー。連れてくるね!」
夏貴の交友関係を広げるチャンスだと思い、汐は快諾した。