Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「あっ!来た来た!凛ちゃーん!!」
場にひまわりが咲いたような明るい声が響く。渚が凛を呼んだ。
声がする先には岩鳶水泳部のメンバーが集まっていた。
「だから、でけぇ声で人のこと呼ぶんじゃねぇって」
「ごめんごめん」
「まったく、渚くんは…」
てへ、とあざとく笑う渚と、やれやれと言いたそうな怜。
凛から聞いていた姿そのままで、階下のプールに負けず劣らず賑やかだと汐は柔らかな笑みを浮かべる。
「江は?」
「江ちゃんなら午後の打ち合わせに行ってるよ」
真琴がそう言うと、凛はそうかと返した。
「汐、久しぶりだな」
凛の後ろに控えていた汐を見つけて遙は声を掛けた。
遙から汐に声をかけるなんて想像していなくて、凛は目を丸くした。
「ハル…お前、無口卒業したのか…?」
「…俺は別に無口じゃない」
「お前が無口じゃなかったら世の中みんな歩くスピーカーだろ」
「…それは凛のことだろ」
「なんだと」
「まぁまぁ。ハル、それに凛も」
くだらないことでも睨み合う遙と凛。それを宥める真琴。
自分と一緒にいる時とは違う凛の姿が微笑ましくて、汐は思わず笑ってしまう。
「凛ちゃん、その子って、凛ちゃんの…」
汐に話しかけるタイミングを今か今かと見計らっていた渚が、待ちきれずに凛に訊いた。
きらきらと目を輝かせてじっと渚は汐を見つめている。
遙と真琴はそっと後ろに下がって、渚と怜を前に出す。
凛もそっと汐の背を押し前に出した。
渚と怜、凛と汐が対面する。
「あぁ、前ちゃんと紹介するって言ったな。そうだ、俺の恋人でスピラノ水泳部でマネージャーやってる。汐だ」
「渚くん、怜くん。初めまして。榊宮汐です。仲良くしてね」
渚の人懐っこい瞳、怜の聡明さが宿る瞳を順に見つめ、微笑んだ。
「汐ちゃん!初めまして!僕、葉月渚!会えてすっごく嬉しい!よろしくね!」
いるだけで場を明るくする素直で良い子だな、と汐は思った。
渚は屈託のない笑顔で汐の手を握り、そして上下にぶんぶんと振った。
「ちょ、ちょっと渚くん!そんなに激しく振ったら汐さんの腕がもげてしまいますよ!」
「あ、ごめん、嬉しくてつい…」
「全然大丈夫だよー!」
「渚くんが失礼しました、僕は竜ヶ崎怜です。よろしくお願いします」
礼儀正しさと突っ込みが冴えるユーモアを持った面白い子だな、と汐は思った。
怜は眼鏡を直しながら汐に挨拶した。