Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「賑やかだねー!」
「そうだね、姉さん」
楽しそうにはしゃぐ姉に夏貴は目を細める。
ゴールデンウィーク中の1回目のオフ。この日榊宮姉弟は岩鳶SCリターンズで開催されるスプラッシュフェスに来ていた。
揃いともとれる淡いブルーのシャツをメインに汐はホワイトのフレアスカート、夏貴はグレーのパンツを合わせた装い。
ラフな格好が多い観客の中で、ふたりは一際目立っていた。
「夏貴からスプラッシュフェスに誘ってくれるなんてびっくりした」
「それは…。ちょっと見ておきたい選手がいてね…」
今まで他の選手に注目するなどほとんど無かったから、そう言った瞬間姉が目を輝かせた。
「わざわざここまで来るってことは岩鳶の選手?」
「…うん」
夏貴の脳裏にひとりの選手が浮かぶ。
話でしか聞いたことは無いが、あの凛がライバルとして認めたスイマー。
「誰ー?」
「…七瀬、遙さん」
「ハルくんかぁ…!後でお話しに行く?」
「えっ…、それは、向こうは僕のこと知らないと思うし、いいよ」
姉の提案に、ぎょっとして首を横に振る。
初対面の人に悪い印象を抱かれないような対応は出来ても、打ち解ける術までは持ち合わせていない。
「この機会に仲良くなればいいんじゃない?」
「仲良く…なれるかな…」
不安げに眉を寄せながら夏貴は言う。
邪険に扱われる心配はしていないが、何しろ彼は無口なイメージが非常に強い。
汐を介しても会話の間が持たないのが目に見えていて、夏貴は躊躇う。
「よ、汐。それに夏貴も」
「あー凛くん」
「どうも」
遙に声をかけるかどうかで話していたら凛が登場した。
丁度昼休憩の時間なのだろう。
「夏貴、さっきは急に電話して悪かったな」
「いえ」
何かアクシデントがあったのか、つい3時間前にかかってきた今日何してるのかという内容の凛からの電話に『姉さんと過ごすので暇な時間は1秒たりともありません』とばっさり切り捨てたことが記憶に新しい。
実行するかはさておき、謝るのなら自分の方だとは認識していた夏貴だが、逆に謝られてしまい何だかいたたまれない。
「汐、ちょっといいか?」
「ん?」
「岩鳶の奴らが汐に会いたいって言って聞かねぇ…」
「そうなの?」
と汐が返しながら、申し訳なさそうにちらりと夏貴の方を見る。
姉の視線に穏やかな笑みを浮かべながら夏貴は頷いた。
「行っておいでよ、姉さん」