Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
『もしもし、璃保』
「あら、宗介。アンタから電話してくるなんて珍しいじゃない。どうしたの?」
休日の練習を終えた璃保は寮の自室にてゆったりとした午後を過ごしていた。
ハーブティーの注がれたティーカップを弄びながら璃保は宗介からの電話を取った。
『例のこと、解決したぞ』
「あら、そうなの?」
説明されなくても分かる。
例のこと、過去の恋愛を巡るいざこざ。
ここ数日汐の元気が無く、問いただしたら自分が昔宗介と付き合ってたことに対して凛を嫌な気持ちにさせてしまったと言っていた。
『俺と凛の間ではな』
「ふぅん。ならきっと大丈夫ね。今日汐の家に凛が行くらしいから」
『凛から聞いた』
「あのふたり、今日はきっと仲直りセックスね」
『やめてやれよ』
下世話な話をつっこむ璃保。
それを慣れた様子で流す宗介。
動揺した声が聞きたかったのにいつも通りの反応でつまらないわ、と茶化すと、弄んでいたティーカップを置いた。
「アンタは、凛と汐がそういう関係で嫌じゃないの?」
そう言いながら璃保はひとり自嘲気味な笑みを浮かべる。
こんなことを訊いてどうするのだろう。
ただ、自分もはっきりさせておきたかった。
凛と汐が交際していることに対して、宗介はどう思ってるのか。
『俺が選んだのはお前だ。今更嫌とか思うわけねぇだろ』
「そう。どうしたの?アンタがそんなこと言うなんて珍しいじゃない。雨でも降らないといいけど」
自嘲の笑みを穏やかなものに変えて璃保は言う。
本音を話すと宗介に今更馬鹿馬鹿しいと笑われてしまうかもしれないが、安心したのだ。
『散々な言われようだな』
「いつものことじゃない。ねぇ、宗介。アンタこの後何するの?」
『特に用事はねぇよ』
「そう。わかったわ。じゃあ3時くらいにアンタのとこ行くから」
『迎えいるか?』
「いらないわ。アンタは方向音痴だからきっと辿り着く頃には日が暮れてるだろうから」
『誰が方向音痴だ』
冷めきらぬハーブティーを飲み干し、カップを置く。
事実じゃない、と笑いながら電話を切った。
待受画面に戻った携帯を見つめながら璃保は微笑む。
そこには、だいぶ前に撮った宗介とのツーショット。
宗介に見せたらどんな反応をするだろうか。
これから宗介に会いに行く。
宗介が東京から戻ってきたことを実感する。
会いたいと思った時に会いに行けることが嬉しかった。