Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「俺、正直あの日お前に負けたって思ったな」
「どういう意味だ」
〝あの日〟はきっと買い出し途中に汐と璃保と会った日だろう。
「男として。…俺、あんなに幸せそうに笑う汐は初めて見た。昔の俺がどんなに願っても見ることが出来なかった笑顔だ。それをお前は叶えた。俺が今付き合ってるのは璃保だが、やっぱり汐には笑っていて欲しいって思うのは変わらない。それは俺だけじゃなくて璃保も同じだ」
えも言われない優越感に似た感情が湧いた。
宗介の言葉に、これまでの汐の笑顔が駆け巡る。
思い返せば他の男に嫉妬する余地を与えないほど、汐は凛に対して特別な表情を見せてきた。
宗介しか知らない璃保の笑顔があるように、自分しか知り得ない汐の特別がある。
今の宗介の言葉、璃保が言っていた〝汐、今すごく幸せそう〟、そして汐が自分に向けてくれる笑顔。
すべてが融合し、ひとつになる。
自分が惚れた女ひとり真っ直ぐ愛せなくて何が男だ。過去に拘って汐を突き放している場合か。
「なぁ凛、俺達もう過去に拘るのやめにしねぇか」
しん、と静まり返った部屋に響く声。
凛の胸中を知るかのように宗介は言った。
「俺が今1番大切な女は璃保だし、汐と今付き合ってるのは凛だ」
「…そうだな、今いる恋人の幸せのために全力を尽くすのが男の役目だな」
「…相変わらずロマンチストだな」
「うるせぇ」
穏やかに軽口を叩く宗介の脚に蹴りを入れる。
やはり面と向かって話してよかった。
男の嫉妬は醜いと思い知った。
もう宗介に対するどす黒い感情は消え去った。
汐に謝らなくてはならない。
汐が好きで、1番大切だから。
「俺は今でも汐には幸せになって欲しいって思ってる。…元カレとしてじゃねぇ。汐は彼女の…璃保の親友だからだ。大事な奴の大事な人は、大事に思わねぇとな」
宗介の口からこんなことを聞けるなんて思ってもみなかった。
恋は、宗介の器を広くした。
「凛、汐のこと幸せにしろよ。璃保が言ってたが、育った環境上汐は嫌われたくないって気持ちが強い。だからとっとと仲直りして気が済むまでイチャついてこい」
「辛気臭い話はここまでだ」
にやりと宗介は口角を上げる。
「ここからはお前の惚気を聞くことにしよう」
いつもならはぐらかす惚気話だが、宗介は璃保とのことを話した。
今日は逃げられないと腹を括り、その夜は就寝まで話し込んだ。