Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「あー…やっちまった…」
大きくため息をつきながら携帯を握りしめ、その場に凛はしゃがみ込んだ。
(心、狭すぎだろ俺…)
汐の口から宗介の名が出る度に、腸が煮えくり返るほどの苛立ちを覚える。〝宗くん〟呼びなら尚更。
それが嫉妬であることなど分かりきっている。
まずは話を聞くべきだと思っていても、嫉妬心に負けて汐に冷たく当たってしまった。
足音がひとつ近づいてきたが、凛はうなだれたまま顔を上げない。
やがてその足音は自分の前で止まった。
誰だ、と思い顔を上げると、静かな夕陽の瞳が凛を見つめていた。
「ガタイのでかい人がそんなところでしゃがんでると、通行の邪魔なんすけど」
凛が辛気臭い顔をしていても、お構い無しで憎まれ口を叩く夏貴。
今だけ汐もこんな性格をしていたらどれだけ楽だっただろうか。
「うるせー」
そう言いながらそっぽを向くと、同じように夏貴もしゃがみ凛の顔を覗き込んだ。
茜色のアーモンドアイが凛の瞳を捕らえる。
「何をそんなに情けない顔してるんすか。さては姉さんと何かあったんでしょう?」
「っ…」
図星。夏貴の表情を読み解く力には舌を巻くばかりだ。
顔のよく似た姉弟。汐に見つめられている気分になる。
「喧嘩?いや違うな。姉さんは喧嘩を嫌う性格だからね」
「汐と喧嘩なんてしたことねぇよ」
汐とは喧嘩をしたことが無い。あってもすれ違いのみ。
だが実は後者の方が生じる溝が大きい。
喧嘩は自分を分かってもらいたいが為の意見のぶつけ合い。
すれ違いはそうではない。
汐は喧嘩が嫌い。意見をぶつけることが苦手なのだ。
そんな汐が言いづらいことを話そうとした。
きっと電話の向こうでひとり辛い思いをしているだろう。
なおのこと話に耳を傾けるべきだったと凛は反省する。
「凛さん、あんた今嫉妬に狂った顔をしてる。姉さんが他の男にどれだけモテようともそんな顔はしたことなかった。…そんなあんたがそんな顔をするんだ。理由はひとつしかないだろうね。…宗介さんのことでしょう」
雷に打たれたような衝撃が走る。
ここまで夏貴に言われるとは思っていなかった。
凄いと尊敬するよりも、一種の恐怖を覚えた。
「…あとは当事者同士で話してください」
そう言って夏貴は立ち上がると歩き出した。
追いかけるように振り向くと、〝当事者〟がいた。
今、一番見たくなかった男。
「宗介…」