Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「あの、前に璃保から聞いたと思うんだけど…実はね、宗く…宗介くん、あたしの元彼なの…」
『らしいな』
「…ごめんなさい」
『…なんで謝んだよ。それは誰に対してのごめんなさいだ?』
凛の言う通りだ。
ここは謝るところではない。謝ってはいけないと分かっていたはずなのに。
自分は一体誰に対して、何に対して謝っているのだろう。
凛に対してか、それとも凛の親友とからっぽな恋愛をしていたことに対してか。
「…凛くん、に対して…」
恐る恐る言葉を紡ぐ。
声が震えていたと思う。
変にはぐらかしたりするほうが信頼を失うと考えたから正直に話した。
本当はとてもとても怖かった。凛に嫌われてしまうのではないか。
信じていないわけではない。
しかし、受け止めてくれると信じる気持ちよりも嫌われたくないという保身の気持ちが勝ったのだ。
『意味わかんねぇよ。謝られた方が惨めになるって分かんねぇのか?』
「…それは…っ、…ごめんなさい」
また謝ってしまった。
携帯を握る手にじわりと汗が滲む。喉が渇く。
冷たい焦燥感が背筋を走る。焦るとろくなことがないなんてわかってるのに。
「でも…」
『いや、もういい。今日のところは何も話すな』
ぴしゃりと牽制される。
後から思えば、この時凛にこう言われてよかった。
このまま話を続けていても支離滅裂になることが目に見えていたから。
『…今日はもう寝る。悪いな汐。おやすみ』
「え、りんく…」
突き放されるかのように無慈悲に響く終話音。
名を呼ぶ前に一方的に切られてしまった。
大きくため息をついて、用済みになった携帯をベッドに投げる。
途端に凄まじい自己嫌悪に襲われる。
もう少し内容を整理してから話せばよかった。
しかし、何を言っても言い訳になってしまうだろうという気持ちもある。
よく考えれば、先ほど凛に言った〝ごめんなさい〟も単に謝って自分がすっきりしたいだけ。救われたいだけ。
結局は自分が可愛いだけ。
自分可愛さの甘えが、ナイフのように鋭利な刃物になった。
それが凶器で汐の胸をえぐったが、それ以上に凛の心に深く突き刺してしまうという結果になった。
いつまで経っても変わらないと痛感する。
自暴自棄気味にベッドに倒れ込む。
凛をまっすぐに愛したいのに、凛にまっすぐに愛されたいのに、それを難しくしているのは紛れもなく自分自身だった。