Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「凛くんお疲れ様」
『おう。さんきゅ。お疲れ』
買い物途中の凛と宗介に会ってから数日。
あの日以来凛とは会っていなかった。
その間メールで連絡を取っていても宗介のことには触れてこなかった。
汐が自分から話すまでなにも言わないつもりなのか、凛の真意は読めない。
「今電話大丈夫?」
『ああ』
電話越しの凛の声はいたって普通。むしろ穏やか。
逆に深刻な話があると予感して身構えられても話しづらいだけだから正直ありがたい。
「3日会わないともうしばらく会ってない気分になるよー」
『悪いな。部屋替えの準備が立て込んでてな』
「ううん。全然いいよ」
あえておどけたような声音で言った。
あくまでもいつも通り、そう自分に念ずる。
変に考え事をしながら電話をしていると、察しのいい凛だからすぐに突っ込まれる。
いつ切り出そう、なんて考えながら他愛のない会話を続ける。
電話越しの凛は穏やかで、汐の頭を悩ませている内容など微塵も気にしていない様子にも思えた。
『そういや、宗介が正式に入部した』
どきりとした。
まさか凛の方から宗介の話題を振るとは思っていなかった。
「そうなんだ…」
『ああ。夏貴、すげぇ驚いてたぜ。でも嬉しかったんだろうな。今まで見たことないような笑顔だった』
「夏貴、宗くんと仲良かったからね」
何気なく言ったひとこと。
『…宗くん、な』
含みを持たせた凛の声。
しまった、と思った。
凛は今どんな気持ちで〝宗くん〟という言葉を聞いただろうか。
嫌な汗がじわりと吹き出す。心臓が走り出す。
なるべく引き伸ばしたかったが、それも逆効果だと悟る。
凛に気づかれないように大きく深呼吸をして、意を決して切り出す。
「あの、凛くんにちょっとお話があって…」
『宗介のことか?』
ご名答。さすが凛。鋭い。
その声はあくまでも穏やか。そのことが逆に汐にとっては不気味に感じた。
何を思っているのか見当もつかない。
「…そう」
『なんだ?』
「あの…えっと…」
思った以上に言いづらい。
やはり会って、面と向かった状態で話すべきだったと反省する。
「やっぱり会って…」
『はやく言えよ』
「凛くん怒ってる…?」
『別に怒ってねぇよ』
汐の中の後ろめたさが、凛の声を不機嫌なものに変えた。
と、このとき汐はそう思い込んだ。
これ以上躊躇うと本当に凛を怒らせてしまう。