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Destination Beside Precious

第14章 11.Boys and Girls


「汐!お前でけぇ声で人の名前を呼ぶんじゃねぇよ。恥ずかしいだろ!」
汐に名前を呼ばれた瞬間、周囲にいた人々が一斉に凛の方へ振り向いた。
凛と汐が合致すると、やれやれとでも言いたそうに目をそらした。
彼らの考えがなんとなく伝わる。なんだただのバカップルか、と思っただろう。

「あー、ごめんね。凛くん見かけて嬉しかったからつい…」
「お前は犬かよ。…ったく。しょうがねぇなぁ」
まるで飼い主を見つけてパタパタと尻尾を振る犬のようだ。
叱られたわんこみたいにしょぼくれる汐と、彼女の言い訳が可愛くてついつい許してしまった。

「…おい、凛」
ふたりの世界に入る寸前、今のこの瞬間まで蚊帳の外だった宗介が凛に声をかけた。
失礼極まりないが、すっかり宗介の存在を忘れていた。

「あぁ、悪ィ…。…その、俺のこ…彼女。汐ってんだ。スピラノ水泳部のマネージャーやってる」
いつもなら誰かに汐のことを紹介する時は、恋人だと伝える凛。
しかし宗介の手前、なんだか恥ずかしくて彼女と言った。

ついさっきまで汐のことを話していたところへ、なんというタイミング。
噂をすれば、といったところだろうか。
汐を宗介に紹介し、反応を窺う。

そしてある違和感に気づき凛は怪訝そうに眉を寄せる。
なんだ、この微妙な空気は。

「え、宗くん…」
「汐、久しぶりだな…」

〝宗くん〟。

他者とは明らかに違う、汐の宗介に対する呼び方。
汐の性格を考えると、ある程度親しくなければ下の名前で呼んだりしない。
しかも、あだ名に近い呼び名。
宗介も、汐のことを呼び捨てで呼んでいる。

凛の胸の奥でなにかがゆらりと揺れる。

「は?お前ら知り合いなのか?」
「…まあな」
肯定した宗介。それ以上になにも語ろうとしない。
考えすぎのような気がするが、言葉の響きが意味深に感じた。
凛の本能が〝なにか〟に対して警鐘を鳴らす。

「え…っと、宗くんは夏貴の佐野中時代の先輩!」
夏貴が中学1年の時、宗介は3年。
競泳に対してドライな姿勢が共通していて、波長があったのだろう。
夏貴と宗介はわずかな時間しか共に泳ぐことが出来なかったが、それでも仲が良かった。

「あぁ、そういえば1年かぶ―…」
「ちょっと、汐!凛を見つけたからっていきなり走り出すんじゃないわよ!」

凛が最後まで言い切らないうちに、今度は別の声に遮られてしまった。
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