Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「宗介ってこのあたり何も知らねぇんだよな」
「ああ」
「ここ、日用品が安く手に入るから道、ちゃんと覚えておけよ」
「もう覚えた」
「嘘つけ!お前が方向音痴だってこと俺は知ってんだぞ」
「誰が方向音痴だ」
軽く笑いながら凛と宗介はお互いを小突きあう。
案内も兼ねてふたりは大型ディスカウントショップへ買出しに訪れていた。
宗介と外出。昔を思い出して凛はいつになくはしゃいでいたのかもしれない。自然と笑顔がこぼれる。
「なあ、凛」
夕食まで時間があるから軽食でも摂ってから帰ろうか、そんなことを考えていると宗介が上から声をかけてきた。
「なんだ?」
「5年ぶりだし、ひとつ訊きたいことがある」
「?なんだよ?」
やけに改まった質問だな、と凛は少し身構える。
しかし、宗介の口から出た言葉はまったく見当違いなものだった。
「お前、すごく可愛い彼女がいるって本当か?」
「なっ…!!」
悪そうにニタァと口角を上げる宗介。突拍子もない質問に耳まで赤くする凛。
「んなこと今訊くことじゃねぇだろ…っ!つーか誰からきいたんだよ!?」
「否定しないってことはそうなんだな。部員どもがよく言ってる。松岡はあんなに可愛い彼女がいて羨ましいってな」
「あいつら…!」
自分の彼女は鮫柄水泳部のアイドルだということを忘れていた。
汐と付き合っていることが部内に知れ渡ってもその人気は衰えることを知らない。
「そういうお前はどーなんだよ?」
話題の中心をすり替えようと凛は宗介に質問を投げかける。
「俺?いる」
「は!?」
思わず足を止めてしまった。衝撃の事実。
さらりと、さも当然かのように言う宗介。
「そうだったのかよ!今まで知らなかった…。え、で、誰だよ?東京の女か?」
「いや、違う。中3のときから付き合ってるスピラノの女」
「は!?」
この日2度目の衝撃の事実。
しかもスピラノ。もしかしたら汐の知り合いかもしれない。
「名前は―…」
〝宗介の彼女〟について訊ねようとした時。
「あー!凛くんっ!!」
明るくてよく通る声が凛を呼んだ。
この呼び方をする人なんてひとりしかいない。
振り向くと、案の定樺色の髪の可愛らしい彼女が手を振りながら小走りで駆け寄ってきた。
その動きが小動物を思わせて凛はこっそり頬を緩める。
だから気づかなかった。
汐の姿を見た宗介が一瞬表情を強ばらせたことを。