Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
鈴蘭の咲く道を歩きながらふたりはプールに向かう。
話題は様々だった。学校のこと、部活のこと、昨日見たテレビ番組のこと、そして、勉強のこと。
「ねぇ、璃保は進路…どうするの?」
今日配布された進路希望調査のことが頭から離れない汐は璃保に将来を訊いた。
「アタシ?アタシはー…、どうしましょうね。なにも考えてないわ」
「そっか」
なるようになるわ、と自分の将来に無関心そうに返す璃保。
璃保はずっと昔から変わらない。求めているのは〝自由〟のみ。
璃保の未定の将来に、どこか安心した自分がいた。
「璃保ならどこでも行けそうだね。水泳でも結果を残してるし、成績だってトップクラスだし」
微かに笑みを浮かべると、汐の瞳に陰りが差す。
「あたしも璃保くらい頭がよければ医学部行けるのにな…」
「汐、アンタはそれでいいわけ?」
間髪入れずに璃保は言った。
斜め上からロイヤルブルーの瞳が汐を見つめる。
ふたりの間に沈黙が流れる。
汐の事情を知る璃保だから、返事を急かすことはしなかった。
「あたしは…どうしたらいいか分かんないや。ずっと、高校生でいたいなあ…」
現実逃避に他ならないが、汐はそう零す。
見上げた空。澄み渡る快晴。
景色も空気も1年前と何も変わらないはずなのに、大きく違う。
風が吹いても鈴蘭の香りを感じることはない。
気づいたら高校3年生。
永遠なんてない。約束された未来なんてない。
部活で忙しい毎日だったが、それ以外をただ〝なんとなく〟過ごしてきた高校生活もあと1年。
後ろを振り向いても何も無いし、前を向きたいとも思えない。
自分は一体なんなのだろう、と汐は目を伏せた。
「あーそうだ。さっきあいつからメール来たんだけどね、正式に鮫柄に入学して部活も今日から参加するんだって」
しおれた花に水を遣るように、気を利かせた璃保は話題を変えた。
「そうなんだ!夏貴驚くだろうなー」
夏貴から喜びの連絡がくることが想像に容易い。
璃保の彼は、夏貴にとって先輩の中で唯一仲がいいと言える存在だった。
「あと、昔からの連れとたまたま同じクラスだったって言ってたわ」
「え、すごい偶然だね」
「汐にその連れのこと紹介したいって言ってたわ」
「そうなの?宗くんの親友、どんな人だろー?」
楽しみ、と汐は笑った。
この時、それが今後どんな影響をもたらすかなど誰も考えていなかった。