Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
汐の誕生日から数日が経ち、お互い学校生活に戻った。
いつもと変わらない朝。ガラス越しに感じる麗らかな春の陽射しに目を細める。
朝のホームルーム前の時間。クラスメイトが談笑する中、凛はひとり音楽を聴きながら静かに過ごしていた。
そろそろ飽きてきたから曲数を増やそうなどと考えていると、昨年同じクラスだった男子生徒が凛の元へやってきた。
「松岡ー、これこの間借りたやつ」
「おう」
彼は凛にCDを返すと、自分のクラスへ戻っていった。
それと同時に担任教師が教室に入ってきた。
「席につけー」
予鈴を待たずに担任が教壇に上がる。
クラスメイトはばらばらと自分の席についた。
予鈴前にホームルームが始まるなんて珍しい。今朝は大事な連絡事項でもあるのだろうか。
「転校生を紹介する」
連絡事項かと思いきや、予想外の展開に凛は驚く。
高校3年の4月末という意味の分からない時期に転校してくるなんてどんな奴だ、と思った。
自分自身も小学6年の年明けというありえない時期に転校したことがあるということは、この時微塵も凛の頭にはなかった。
「東京の鯨津高校から転校してきた―…」
(鯨津…え、鯨津高校って、たしか…)
〝鯨津高校〟この名前には覚えがあった。
全国大会常連の東京にある水泳強豪校。
確か、親友の進学先。
入室してきた〝転校生〟の姿を目の当たりにして、凛は息を呑む。
少し色素が抜けた焦げ茶色の短髪。
背が高くて体格もいい。
まさか、そんな。信じられない。
凛は目を見開く。
どうして、どうして鮫柄にいるのだろうか。
新しいクラスメイトの中を彷徨っていたエメラルドグリーンの瞳が凛を捉える。
「山崎宗介くんだ」
「宗介…」
凛の呟きと共に、視線がぶつかる。
宗介は凛を見つめて、昔と変わらない不敵な笑顔を浮かべた。
同じ日の夕刻前、スピラノでは鐘が終礼を告げた。
「汐、どうしたの?」
鐘が鳴り終わっても席に座ったままの汐に、璃保は声をかけた。
「あ、璃保…。ごめん、すぐ用意する」
「ああ、いいわよ急がなくて」
璃保は部活へ行く支度を始める汐ではなく、机の上の紙を見た。
3年松組 榊宮汐、とだけ書かれあとは真っ白の進路希望調査表。
璃保が見ていることに露も気づかない汐は、その紙をファイルにしまうと席を立った。
「お待たせ。行こっか」