Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
汐が夕飯を作ると言ってからものの1時間もしないうちに料理がテーブルに並んだ。
「ごめんね、材料あると思ったらあんまりなくって今日は少し手抜きみたいになっちゃった」
「これは手抜きって言うのか…?」
豚しゃぶとキムチのパスタにシーザーサラダ、コンソメスープ。
手伝うと言った凛だが、実際のところ野菜を皿に盛るだけしか仕事がなかった。
「食べよー」
「待った。汐の母さんは呼ばなくていいのか?」
「あー…、いいよ。お母さんきっと外で食べてきただろうし」
テーブルに用意された食事は2人分。
凛の顔を見ずに汐は答えた。そのまま凛に座るよう促す。
いただきます、と手を合わせふたりはフォークを手に各々食事を口に運び始める。
「今日はどうしてハルくん達に岩鳶高校に呼び出されたの?」
「最初は話があるって呼び出されたんだ。んで、行ったら急に目隠しされてプールまで連れてかれた」
モゲとか言いやがってあいつら、など言いながら肩を竦める凛。
「え、ちょっと不穏な感じ…?」
「いや、違ぇ。…あいつら、桜のプールを見せてくれたんだ」
「桜のプール?」
「ああ。…俺が小6のころ、岩鳶小の桜の木を見て〝桜のプールで泳いでみたい〟って言ったのをあいつら覚えててな…すげぇ綺麗だったし、感動した」
クリアブルーを埋め尽くす薄桃の桜の花びら。日が傾いたところに姿を見せた橙。それが水面に乱反射して煌めいていた。
まさか彼らがあんなサプライズを用意しているなど露にも思っていなかった凛だから、思わず涙ぐんでしまった。
「汐にも見せたかった」
「え?あたし…?」
凛が見た情景を想像しながら話を聞いていた汐は少し間の抜けた声を上げてしまった。
「え?ってなんだよ。感動や喜びを恋人と共有したいって思うのは普通だろ?」
「…ありがとう」
食事も終わり汐が後片付けに取り掛かろうとした時、凛はふと思い出したように言った。
「なあ、汐の母さんって書斎か?」
「そうだけど…なんで?」
「ちょっと話があってな…。あ、別にそんな重たい話じゃねぇぞ?だからそんなこの世の終わりみたいなツラすんなよ」
あやすように汐の頭を撫でると凛はリビングを出て母のいる書斎へ向かう。
恋人と、自分の母親。
相手は父ではなく母だから口論になる恐れはまず無いが、母に一体なんの話があるのだろうか。
まったく見当がつかなかった。