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Destination Beside Precious

第14章 11.Boys and Girls


「はい。終わり」
「本当に少しだけだな」
およそ10小節分弾いた汐は苦笑いを浮かべた。

「この曲、この後左手が難しいの。…それに、ピアノは夏貴の専売特許みたいなものだし」
「待った、夏貴ってピアノ弾けるのか?」
意外そうに言う。
夏貴の〝お坊ちゃま〟な面を垣間見た。

「弾けるよ。しかもあたしなんかとは比べちゃいけないくらい上手いよ。ほら、あれ見て」
あれ、と言われたものへ視線をやると、一瞬目を疑った。
数々のコンクールで優秀な成績を修めた証である賞状や楯がガラスケースの中で鎮座していた。

「あたしはこっち」
賞状を見ていた凛は再び汐に視線を戻す。
そこにはヴァイオリンを携えた汐の姿。

「まじ?お前ヴァイオリン弾けんのか?」
「ずっとやってたからピアノよりは弾けるよ」
そっと目を伏せた汐。ぴん、と張り詰めた静寂。そしておもむろにヴァイオリンの音が響き始める。

どこかで聞いたことがある曲。ふわりと、アフロヘアのヴァイオリン奏者が浮かんだ。
そうだ、彼が弾いているテレビ番組の主題歌の曲だ。

弓を引く手や弦を押さえる指の華奢さに女の子らしさを感じた。
ヴァイオリンを弾く姿が絵に描いたように様になっている。
嫌味のない高音とうねるような響きのある低音に、凛も思わず目を伏せる。


やがて汐が演奏を終えると、凛は目を開き賞賛の拍手を送る。

「上手いな!」
「ありがとう!名誉挽回できたかな?」
「出来たな。弾いてる姿すげぇ…綺麗だった」
ヴァイオリンをケースにしまった汐は、ソファに座る凛の隣に腰を下ろした。
そしてあのいたずらな笑みを浮かべる。

「ね、凛くんご褒美は?」
凛の喉が上下に動く。頬が上気したように色づく。
自分の唇をちょんちょんとつついて可愛くおねだりする汐。あざとい。あざとすぎる。

「どこで覚えてきたんだ、そんなあざといおねだり」
キスをする前に凛はそう言った。
汐の唇が答えを紡ぐ前に物理的にそれを封じてしまう。

唇を離すと、幸せそうな汐の笑顔。これでもかと独占欲が煽られる。
この笑顔は、俺だけのもの。心の中で凛はそう唱えた。

「凛くんっ!」
ちゅっ、と今度は汐が凛にキスをした。
そのまま隙間なく抱きつかれる。凛からは汐の頭しか見えないが、今きっとご満悦な顔をしているだろう。

甘えたいスイッチが入ったらしい汐はこの後ずっと凛にくっついていた。
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