Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
(あれ、雨降ってきた…)
大会が終わり帰宅して、ひとりで一息ついていた汐は雨音に気づき窓の外を見た。
ついさっきまで晴れていたのに、今外では大粒の雨が降っている。
夕立だ。そういえば今朝、赤紫の朝焼けを目にしたことを思い出した。
(雨降る前に帰ってこれてよかったけど、みんなはちゃんと帰れたかな…)
みんな、スピラノの選手達と凛のことだ。
しかし距離的に考えれば汐の方が遠い。となればきっと彼女らと凛は雨が降る前に帰ることができただろう。
ホットココアが入ったマグカップを片手に携帯で今日撮ってもらった写真を見ながら汐はひとり頬を緩める。
凛も自分も、とても自然な笑顔を浮かべている。
凛といると、自分を繕わずに笑うことが出来る。
たくさんある写真を眺めていると、ふいに着信画面に変わった。
(凛くん?)
凛からの着信。汐は通話ボタンを押すと携帯を耳に当てた。
「もしもし凛くん?」
『もしもし汐、今家か?』
「そうだよー」
『頼みがある』
とても緊迫したような凛の声。何事かと思い汐の背筋がぴんと伸びる。
「ど、どうしたの?何かあったの?」
『シャワーを貸してくれ!』
凛が汐の家にやってきたのは電話があってからおよそ30分後。
玄関の扉を開けて汐は凛の頼みの理由を理解した。そこにはずぶ濡れの凛が立っていた。
大会が終わった後に、遙たちに岩鳶高校まで来いと言われて行ったらそこで夕立に襲われたらしい。
同じように雨に打たれた江を先に家まで送ってシャワーを浴びさせた。春とはいえ日が落ちればまだ肌寒い。このままでは風邪をひくと思って汐を頼ったというのがことの経緯だ。
この先凛が泊まりに来ることを考えて凛の着替え類を家に置いておいてよかったと、汐はひとり自室のベッドに座りながら思った。
しばらくすると、3回のノックの後扉が開いた。
「悪いな、汐。急に電話して風呂まで入らせてもらって」
「あー凛くん。全然いい…よ…って、どうしてタオルだけなの!着替えは!?」
腰にタオルを巻いただけでほぼ全裸に近い姿の凛に驚いた汐は顔を林檎のように染めて声を上げた。
心臓が急に走り始める。
その姿で凛はつかつかと歩み寄ってくるから、反射的に後ずさってしまう。
「悪ぃ、…じゃなくて、その着替えを借りようと思って来たんだろーが。つーか逃げんな」
「え?あ…」