Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
「夏貴白ラン似合ってるねー!」
「そうかな?ありがとう」
一夜明けて4月6日。
今日は鮫柄学園入学式。しかし生憎の天気で、外ではしとしとと雨が道や街路樹を濡らしていた。
「今日は午前が雨で午後からは雨が嘘みたいに晴れるんだって」
「そうなんだ。姉さん部活は午後から?一応折りたたみ傘は持っていってね」
微笑む弟の姿をじっと見つめる。
夏貴はより母親に似てクォーターであるが海外の血が強い顔立ちをしている。
自分の弟ながらどこかのモデルのようだと思ってしまった。
姉の視線を感じた夏貴はさらに穏やかな笑みを浮かべた。
「どうしたの?姉さん」
「ううん、ただ、夏貴も高校生になったんだなって思って」
つい数週間前は黒い学ランを着ていた弟は今目の前で白い学ランを着ている。
同じような学ランでも色が反転するだけでこんなに受ける印象が違うのかと汐は思う。
小さかったはずの弟は、今や自分の背をとっくに超えてしまった。
競泳で結果を残して、トップアスリートの中に片足を入れるほどの人になった。
「それを言うなら姉さんももうすぐ18歳でしょ。今年の誕生日は一緒にいれなくてごめんね」
「ううん。しょうがないよそれは。今日から寮生活だけどなにかあったらいつでも帰ってきてね。それと、凛くんにも頼るんだよ、きっと力になってくれる」
「…凛さん、か。そうだね、凛さんはきっと将来僕の義兄さんになるだろうし」
汐とよく似たいたずらな笑みを浮かべる夏貴。
夏貴の中でなにか変化があったのだろう。凛に対してそうやって言うのは初めてだ。
ふたりの関係がいい方向に向かっていることが嬉しい。
「入学式、誰も行けなくてごめんね」
「それは姉さんが気にすることじゃないよ。…それにそんなの昔からだから僕はなんとも思ってないよ」
父親は単身赴任中。母親は今朝も早くから出かけていった。
夏貴の言う通り、卒業式や入学式、授業参観に〝家族〟が顔を出したことは今まで1度も無い。
それは汐にも言えることで、学校行事は同じように家族がこない璃保と一緒に過ごしていた。
璃保の場合は少し事情が違うのだが、どちらにせよ他のクラスメートが家族と楽しそうに笑いながら話をしていたりお弁当を食べている中、ひとりで過ごすのは寂しかった。
けれど、璃保と一緒なら寂しくなかった。
「ねぇ、姉さん。最後に僕のお願い、聞いてくれる?」