Destination Beside Precious
第14章 11.Boys and Girls
桜の花が満開を過ぎたころ。
かたや170を超える長身の彼女、かたや平均身長にも満たないような小柄な彼女。
ふたりの美女は、白亜の校舎の4階の窓から見える遅咲きの桜を眺めながら談笑をしていた。
「6年松組…なんだかんだで汐とは高校3年間同じクラスね」
「そうだねー」
式典用のシルクのタイを外しながら璃保は汐に微笑んだ。
スピラノは中高一貫教育で、その中でも最高学年である高校3年は小学校と同じように6年と生徒達は呼ぶ。
「先週凛と一緒に旅行行ったんでしょ?」
「うん!本当に楽しかったよー!」
「そう」
璃保は汐のシャツのボタンを2つほど外し首元をくつろげた。
そして含み笑いを浮かべながらまたボタンを留めた。
「夜も〝楽しかった〟みたいね。まだうっすらとキスマ残ってるわよ」
「もう、璃保のえっち。…凛くんったらいつも思いっきりキスマークつけるの」
旅行から帰ってきて4日ほど経つのに、まだ完全に痕が消えない。
夏貴や母親にはコテで火傷をしたと言い張ったが、いい加減嘘をつき通すのが難しくなってきた。
水泳部の肺活量、恐るべし。
「見た目通り独占欲が強いのね。可愛いじゃない」
「でも凛くんってヤキモチ妬かないんだよー」
「あら、それは言わないだけじゃない?アンタはモテるから内心嫉妬心メラメラ燃やしてそうだけど」
「そうかなー」
「きっとそうよ。汐もそうだけど、凛もかなり顔整ってるイケメンだから、鮫柄水泳部の部長ともなればかなりモテると思うわ。アンタも少しは独占欲を見せてやりなさい」
汐を不安にさせたくない凛は、たとえ女子に告白されたとしてもそれを汐に言わない。
「あたしも独占欲の塊みたいなものだよ…うん」
「あら、そうなの?」
意外らしく璃保は眉を上げる。
「夏貴はいつから寮に入るの?」
「明日が入学式だから今夜まで家にいるよ」
「そう。…汐にとっては寂しい環境になるけど、辛かったら頼るのよ。いい?アタシなり凛なり…あ、あとアイツもこっちに帰ってくるから。悩みは話せる人に話すのよ」
アイツ、東京から戻ってきた璃保の彼氏のことで汐の元カレにあたる。
別れて璃保と付き合ってからも友達として仲がいい、汐の頼れる人のひとりだった。
「うん。ありがとね」
周りの環境が大きく変わる。汐はそれに順応できるか不安だった。