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Destination Beside Precious

第3章 1.The Honey Moon


汐はお湯が沸騰するのを待つそばで梅干しをほぐし始める。
一方隣でレモンを搾り終えた夏貴は大葉を切りはじめた。

「県外に行くつもりはさらさらないよ」
「そうなんだ」
完全中高一貫のスピラノに通う汐には高校受験という概念の無い。だから高校を選ぶという感覚がいまいちピンと来ない。


「姉さん」
「ん?」
手早く大葉を切り終えた夏貴は汐を見つめた。
ふと思った。姉の身長を追い抜いたのはどれくらい前だろうか。
赤みの強い橙の、夕陽の瞳が姉の赤紫のローライドガーネットの瞳を見つめる。

「さっきのあいつ、本当に姉さんの彼氏?」
「そうだよ」
苦々しい声で夏貴は訊いた。
さっきのあいつ、凛のことだ。
神経質そうに眉を寄せながらさらに続けた。

「あれが松岡凛?」
「うん」
「…」
「どうしたの?」
黙ってしまった夏貴の顔をのぞく。
汐の視線から逃げるように夏貴は目を逸らした。

「別に…。ただ、想像よりも背が高くてかっこいい人だったなって思っただけだよ」
悔しそうに呟いた。
何故弟はこんなに悔しそうにしているのか汐には解らなかった。

「凛くんのこと知ってるの?」
「知ってる...っていうか…」
自分が切った大葉を見つめながら夏貴は語り出した。

「スイミングクラブに昔の写真があって、それに写ってた。あと、僕が中1の頃部活の2こ上の先輩からよく話を聞いてた」

どうやら夏貴がこっちに引っ越してきた小5のときから現在まで通っている佐野SCに昔の凛の写真があったらしい。
さらに中1当時、一番仲の良かった先輩が夏貴によく凛のことを話していたそうだ。

「小学生の頃の凛くん、どんな感じだった?」
「写真だけ見たらいかにもクラスの中心人物って感じで女の子にモテそうな感じ。話聞いたら、お調子者」
「そうなんだ、意外」
凛が話そうとしない昔の姿を夏貴から窺うことが出来て汐は嬉しく、笑みをこぼす。
今の様子からでは、お調子者の凛は全く想像出来ない。
しかし、どんな風だっただろうかと思考を巡らせると胸があたたかくなる。


「幸せそうだね、姉さん」
「んー、まあね」
夏貴の言葉を素直に肯定してにこにこ笑顔を浮かべる汐。
美しい茜の瞳に陰が差したことに気づかない。

「…ねぇ、そんなに松岡凛さんの、どこがいいの。昔の人とは違うの?どうなの、姉さん」
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