Destination Beside Precious
第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※
「ん?拝殿ってここか?この奥だったような気がするが…」
「奥は改装中?みたいだね」
ずらりと並ぶ参拝待ちの列の最後尾についたふたりはそんなことを話し始める。
「平成の大遷宮?」
「…たしか古典の先生が何十年に一回の神様の引越しって言ってたような…」
式年遷宮とは、決まった年に本殿の修造に伴い神体を一時的に境内の別社に移すこと。
ただし、ふたりが今日参拝にきた神社は必ずしも決まった年に執り行わないから式年とはいわない。
ここは昨年に遷宮が行われたらしい。
なるほど、だから奥の社は修造中なのだろう。
「これが終わる頃には俺たちももういい大人だな。…その頃にはもうひとり一緒にいるといいなー」
「え、それって」
どういうこと、と汐は凛を見つめる。
汐の視線をうけて凛は屈んで耳に唇を寄せた。
「だから、その、俺たちの子ども。ってことだ」
そう言って凛は視線を外す。
あさっての方角を向く凛は、耳まで赤いことに気づく。
「もう、凛くん自分で言って照れないのー!」
「うるせぇ」
自分たちの子ども。
今、この瞬間にそんな将来の甘い夢を見ていいのだろうか。
幸せな気持ちと、嬉しいという感情と、ほんの少しの言葉にし難い苦味が複雑に溶け合って汐の胸に流れ込む。
そんな小さなささくれのような胸の痛みを隠して汐は凛に笑顔を向けた。
参拝の列が進み、拝殿の目の前にたどり着いた。
賽銭を入れて二拝四拍でお参りをする。荘厳な空気が流れる。
縁結びの神である主祭神、大国主命に汐は願いを託した。
どうか、聞き届けて叶えてほしい。
伏せていた目を開けてふたり同時に一拝してから神前を後にする。
横に抜けたふたりの目についたのは、たくさん奉納された絵馬の群れ。
新たに奉納しようとする人の持つ絵馬が、既に奉納されたそれにぶつかって木材の乾いた音を奏でる。
「せっかくだし、書いてかねぇ?」
「そだね」
緋袴の巫女の元で絵馬の金銭を納めると、ふたりはそれを持って軒下へ向かう。
絵馬の書き方、と書かれた掲示のそばの台でペンを握る。
何を書こうかと思いながら隣の凛をちらりと見ると、彼は迷いなくペンを走らせていた。
自分の絵馬に視線を戻しペン先をつける。じわりとインクが滲んでいき黒く染みを残す。
想いを決めて、汐はペンを滑らせる。最後まで書くと、榊宮汐の後に数え年を添えた。