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Destination Beside Precious

第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※


つい3ヶ月ほど前、神社に訪れた時は手水舎の水は凍っていた。
今日はそんなこともなく、手から口、柄杓を水で洗い清めた。

「はい、凛くん」
「ああ、さんきゅ。悪いな」
凛が自分のハンカチを取り出すよりも先に汐が差し出した。
汐の気遣いに甘えて手を拭くと、ふわりと柔らかくいい香りが立ち上る。

「いい匂いだな。柔軟剤か?」
「香水だよ」
「ふぅん。…汐お前香水なんてつけてたか?」
普段一緒に過ごしたり抱きしめた時に感じる汐の香りは柔軟剤のようなシャンプーのような香りだった。
記憶を辿っても香水の香りを思い出すことが出来ない。

「凛くんと一緒にいる時はつけないからね。凛くん香水の匂い嫌いだったら嫌だし」
「自分がつけてるくせに相手の香水は嫌だとか、そんな理不尽な男じゃねぇよ俺は」
「凛くんいつもいい匂いするよね。どこの香水?」

デートのときはいつも決まってつけている香水。
以前汐とショッピングに出掛けた時に立ち寄ったパルファムショップでメンズフレグランスを見ていた汐が気に入ったと言っていたもの。
その場では買わなかったが、後日凛ひとりでやってきて汐に内緒で買ったものだった。

香水は好みが分かれやすい。
どうせつけるのなら汐が好きな香りを、と凛は思った。

そんなことを思い出しながら凛はつけている香水の名を言う。
すると汐は頬を緩めて凛を見つめた。

「それって、前あたしとお買い物に言った時にあたしが好きっていったのだよね」
「な…っ、…覚えてたのかよ」
「匂いは人の記憶に残りやすいの。ずっと思ってたんだけど違ってたら恥ずかしいから言わなかっただけだよ」

そうやって嬉しそうに笑うから凛は恥ずかしくなってしまう。
つくづく汐のことが大好きだな、なんて今更言うまでもないことを改めて思う。

「し…っ、汐はどこの香水使ってんだ?」
「あたしはこの鞄と同じブランドのものだよ」
なるほど、と凛は鞄に目をやった。
鞄から財布、キーケースまで同じブランドで揃えている。
香水までそうなら、本当にそのブランドが好きなのだろう。

「ブランド品にはあんまり興味ないんだけど、このブランドだけは別なんだー」
「確かにそのブランドのイメージとお前はぴったり一致するしな」

ハンカチを鞄にしまった汐と再び手を繋ぎながらふたりは銅鳥居を抜ける。
拝殿はもうすぐそこだった。
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