Destination Beside Precious
第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※
「あったかいね。コートはもう要らなさそう」
「そうだな」
そう言って汐は胸いっぱいに春の暖かな空気を吸い込む。
旅館を出てふたりが向かったのは、今回の旅行の最大の目的地である縁結びと福の神である大国主命を祀る神社。
木製の鳥居の下、大きな山を背にした大社に一歩足を踏み入れると、そこはもう厳粛な空気に満ちた神域だった。
「んな大袈裟なの貼らなくてもいいだろ」
それ、と凛は汐の首を見て言った。
呆れと恥ずかしさを足して2で割ったような表情をした凛の視線の先にあるのは首に貼られたガーゼ。
「絆創膏だとあからさま過ぎるからね。ガーゼ貼っておいた方が火傷したって言い張れるの」
年明けに同じ説明を璃保にしたな、なんて思い出しながら汐は言う。
「そもそもこんな目立つ所にキスマつけたの凛くんだからね!」
「わ、悪かったよ…」
「ほんと凛くんキス魔だし痕つけたがりなんだからー」
とても神社でするような会話ではない。だから普段よりも声の大きさを落としてふたりは笑いを交えて言い合う。
「転ぶなよ」
松並木に挟まれた参道まできた。
砂利道で足元が悪いから、汐が転ばないようにと凛は手を握った。
転ばないよ、と返そうとした汐だが、ストラップで足首が固定されていて太さのあるローヒールでも砂利にヒールが刺さるような不安定な歩き心地に思わず口を噤む。
「縁結びの神社にカップルでくると別れるんだって」
ふいにこの言葉が耳に飛び込んできた。
言葉が発せられた方へ目を向けると、若い2人組の女性達が妬みとも羨望ともとれる不快感の募る視線をこちらへ向けていた。
凛と汐は俗に云う美男美女カップルだ。良くも悪くも目立ってしまう。
ましてやここは縁結び神社。パートナーのいない男女が良縁祈願にくる場所。
そんな中で仲睦まじく幸せそうな若い美男美女を見ると嫉妬心が湧いてしまうのも当然といえば当然なのかもしれない。
「迷信だろ、んなの」
凛にもあの妬みの発言が聞こえていたらしい。
危うくその迷信を真に受けそうになった汐は、そう言ってのけた凛を見上げる。
「女の神様のところにカップルで行くと神様が嫉妬して別れさせようとするって話はよく聞くが、大国主は男神だし縁結びの神様だろ。それに夫婦和合のご利益があるところだから、別れさせようとはしねぇと思うがな」