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Destination Beside Precious

第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※


「八寸?」
「ああ、これ、下の台の大きさが約8寸なの。だから八寸」
「そのまんまだな」
汐の豆知識を頭に入れつつ割り箸を割る。

酢の物鉢に箸をつけて口に運ぶと、酢のまろやかな酸味が口に広がる。
わかめの歯ごたえを感じた後、桜海老の味がやってくる。
前菜にはもってこいだ。


続いて運ばれてきたのは、鯛をメインとする造り。
春が旬の金目鯛と、烏賊の造りだ。

「やっぱり白身魚はお造りが一番美味しいね」
鯛の刺身を頬張る汐が幸せそうな声を上げた。
汐に倣い凛も鯛を口に運ぶ。
確かに汐の言う通り、煮付けとはまた違う、鯛本来の風味や食感に舌鼓を打つ。


序盤に海鮮の前菜と造りを食べ終えた頃に仲居が次の料理の用意に入室した。

「失礼いたします」

卓上に用意されたふたり分のコンロに蓋が被せられた鉄板を用意して、固形燃料に火をつけた。
そして蓋を外す。
思わず凛は感嘆の声を洩らしそうになった。

「和牛の鉄板焼きでございます」
トングを2つ卓上に置きながら仲居はそう伝えた。
食べ方の説明をした後、席を後にする。

「すげえ、和牛だってよ!」
「凛くん本当にお肉好きだね」
おもちゃを目の前にして目を輝かせる子どものような凛。それを見守る母親のような汐。

「凛くんのメインはお魚よりもお肉みたいだね」
微笑ましそうに汐はそう言う。

「なっ、んなことねーよ」
照れくさそうに眉を寄せる凛に、汐のはお姉さんを思わせる笑顔を浮かべる。

「ステーキはミディアムレアくらいが1番美味しいよ」

汐に言われた焼き加減になるのを今か今かと待ちわびる凛だったが、ついにその時が来た。
箸でも食べやすいように予めカットされた和牛を口に運ぶと、深いコクと風味豊かな肉の味が広がる。

「すげぇ美味いな、この肉…」
「ね。あたしも黒毛和牛食べたの久しぶり」
あまりの美味しさで味わうことに集中するふたりは自然と口数が少なくなる。

「なあ、汐」
「ん?」
箸を止めて凛は汐に声をかける。
同じように箸を休めて汐は凛の呼びかけに顔を上げた。

「美味いか?」
「うん!とっても美味しい!こんなに美味しいお料理食べられて幸せ」

食事をするのだったら断然食べることが好きな人がいい。
自分の大好きな人が、美味しいと喜んでたくさん食べてくれると自分も嬉しいし倍食事が美味しく感じる。

汐の笑顔に、凛はそう思った。
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