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Destination Beside Precious

第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※



旅館に帰ってきた凛と汐は着物から私服に着替えてロビーで待ち合わせということにした。

お太鼓で結ばれていた帯を外し、着物を脱いで体型補正の為に巻かれていたタオルを外した時の解放感に少し笑みを浮かべた汐はピンクのVネックのニットに袖を通し、ホワイトのフレアスカートを手に取った。

着物にも私服にもあうヘアセットにしてもらったから髪はそのままにして、靴を履いてロビーへ向かった。


「あー凛くん。早かったね」
「着るのはそれなりに時間かかったのに脱ぐのは一瞬だったからな」
凛のそばに寄ると、おろされた髪が目についた。

「髪おろしちゃったの?」
「ああ」
「えーあたし髪結ってるほうが好きだったのになー」
「すずめのシッポとか言って笑ってたのはどこのどいつだ?」
「あれは褒め言葉ー」
「褒め言葉だったのか?…まあいい、行くぞ」
雑談もそこそこに凛は歩き出す。
その後ろをついていくように汐も歩き出した。

「どこにいくの?」
「夕飯。部屋が離れだから部屋食は出来ないらしい。料理が冷めるってよ」
「お部屋って離れなんだ。ほんとにスイートルームなんだね」


食事を摂る場所はレストランというよりは料亭に近いものだった。
室内であるのに川が流れ、どこからともなく聞こえてくる筝の音は老舗料亭を彷彿とさせる。
席は完全個室で扉は襖。掲げられた席札には達筆で松岡様と書かれていた。


「なんか、璃保の家にいるみたい」
座布団に正座をした汐は、仲居が用意した煎茶を飲みながらそう呟いた。

「は?璃保の家、こんな感じなのか?」
「そうだよ」
「家の中に川が流れてんのか?」
「さすがに家の中に川はないけど、お庭に池があるよ。錦鯉が泳いでた」
楽しそうに璃保の実家の思い出話をする汐。
榊宮よりも朝比奈のほうが住む次元が違う存在であると凛は思う。
そもそも家に錦鯉の泳ぐ池があるなんていつの時代のお嬢様だ、とか考えてしまった。


「失礼いたします」
ふいに控えめな声と共に襖が開く。仲居が頭料理の用意に来た。

「お話中失礼いたします。前菜の季節の八寸でございます」
上座、下座の順に跪坐を崩さず料理を用意して去っていった。
ふたりの前に用意された黒い盆の上には、わかめと桜海老の酢の物をはじめとする一口大の海鮮や茶碗蒸しからなる前菜。
器にも風情があり、春を思わせる上品な鉢が使われていた。
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