Destination Beside Precious
第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※
1日目の観光も終盤に差し掛かっていたころ、ふたりはバスに揺られて今日の最後の目的地に向かっていた。
凛がどうしても行きたいと言っていた場所だ。
静かに流れゆく窓の外を見ていた汐は目を伏せる。
バスに乗る前に別の場所へ行った。その時のことを思い起こす。
行った場所は、国の重要文化財に指定されている明治時代に建てられ大正時代に改築された旧駅舎。
明治駅舎の最高傑作といわれ、純日本風の平屋建てが美しい建築だった。
国内外の観光客も多く訪れる場所であり、大正浪漫の残る構内は多文化多言語で溢れていた。
そんな中、凛はとある2人組に声を掛けられた。
「Excuse me?(あの、すみません)」
「What's going on?(どうしましたか?)」
英語で声をかけられ、反射的に英語で返す凛。
みると、外国人のカップルがデジカメを携えて立っていた。
自分たちの公用語が通じたことにぱっと笑顔を咲かせたふたりはデジカメを差し出しながらはにかんだ。
「Could you take a photo?(写真を撮ってもらえませんか?)」
「Of course!(いいですよ!)」
旅行に来て英語が通じる日本人に会えたことがよほど嬉しかったらしい外国人カップルは、写真を撮り終えると凛とフランクに雑談を交わし始めた。
汐はそんな3人の様子を眺めていた。
(ほんとにバイリンガルなんだ…)
英語の勉強を教えてもらったことはあったが、実際に外国人と話している姿は初めて見た。
自分とは違う言語を難なく話す凛はとてもかっこよく、誇らしく思えた。
同時に、胸が少し苦しくなった。
本当に、4年間自分とは違う世界で育った凛。
汐の瞳には、日本語を話している姿よりも英語を使って外国人とコミュニケーションを取っている凛の方が生き生きしているように映った。
すぐ近くにいるのに、なんだかとても遠いところにいるような気がする。
「汐!」
「な、なに?凛くん」
3人とは違う〝世界〟にいた汐は凛のひとことで我に返ったように歩み寄る。
「俺達も写真とってくれるってよ!」
「そうなの?じゃあお願いしようかな…」
自分よりも幾分背の高い外国人カップルへ目を向けると、ばちーんと音が聞こえてきそうなウィンクをぶつけてきた。
とてもいい人そうな笑顔に、汐は表情を柔らかくするとふたりに携帯を渡した。