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Destination Beside Precious

第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※


お世辞ではなく、心から思ったことを着付け師は言った。

「お写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」
「凛くん撮ってもらお!」

凛の手を引いて汐はカメラの前に立つ。

「凛くんちゃんと決め顔してねー!」
「決め顔ってなんだよ」
「かっこいい顔!」
「んなこと言われたって…」
「撮りまーす」

シャッター音がした。続いて汐の携帯、凛の携帯で写真を撮っていく。
デジカメのデータを覗きこんだ汐はくすりと笑う。

「凛くんって3秒で決め顔になれるんだね」
「やめろ言うな、恥ずかしいだろ」

デジカメの画面には柔らかな笑顔を浮かべる汐、澄まし顔の凛。
モデル顔負けの表情の作り方だと着付け師は言う。
こっそりしていたプリクラで自然な表情を作る練習がこんなところで役に立つとは。
先ほどまでの暗い気持ちはどこかへ行方を晦ました。

「そろそろ出掛けよっか」
「そうだな」
「気をつけて行ってらっしゃいませ」
着付け師のお辞儀に一瞥をくれると、汐は凛と手を繋ぎ歩き出した。



「着物きてゆっくり観光ってのもいいな」
「そうだね。あー、そうだ。さっき撮った写真、パンフレットに載せたいって。いい?」
「パンフレット?別に構わねぇが」
「わかった。戻ってきたらそう伝えとくね」
旅館の外へ出ると、観光客で賑わっていた。
中には凛たちと同じように着物で歩いている人もいる。


今回の旅行のメインの縁結び神社への参拝は明日にして、今日はその周辺の散策というスケジュールだ。
汐のことだから、あれが食べたいこれが食べたいと言い出すだろうから細かな計画ではなく大まかで時間にゆとりのある予定を組んだ。
その中で、凛がどうしても行きたいと思っていた場所は最後にまわしてあとは汐の希望に添えるルートにした。

「凛くんが行きたいって言ってた所、ほんと最後でいいの?」
「ああ。あれは夕方に行こうと思ってる」
「そっか。ならよかった。どこ行こう?」
そう言った汐の頬に、ひらりと薄桃色の一片が落ちる。
凛がそれを取ってやり、汐に見せる。

「桜…」
それは、桜の花びらだった。
1つ県が違うだけで桜が咲く時期はこんなにも違う。自分たちが住んでいるところはまだ蕾だった。
春の息吹をより強く感じる。頬を撫でる暖かな風が着物の袖を揺らす。

「春、だね」
「ああ」
本格的な春の訪れを、凛と汐はこの地で感じた。
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