Destination Beside Precious
第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※
「凛くんお待たせ」
「おう。…」
足音と声がした方へ振り向くと、めかしこんだ汐が立っていた。
思わず凛は言葉を失う。
黙ってしまった凛を汐は上目で見つめる。
「どうしたの?」
「いや、その、…あー…、着物、すげぇ似合ってるなって思っただけ、だ…」
「ありがとう!凛くんも着物似合ってるよー!かっこいい!」
控えめに凛に駆け寄る汐の着物の袖が揺れる。
抜かれた衣紋から見えるうなじの艶やかさに凛の胸は高鳴るばかり。
特急列車に揺られること2時間。
半年記念日に凛から贈られた旅行券を手に、ふたりは旅行に来ていた。
観光するにあたって、先に旅館に荷物を預けに来たら着物がレンタルできるとの案内を受けてふたりはそれに肖ることにしたのだ。
白と紅梅の矢絣柄を地模様に色鮮やかな花丸紋があしらわれた着物、それに生成地に紅梅の麻の葉模様の帯を締める。
帯揚げは黒みを帯びた紅…蘇芳、帯締めは金。
白と紅梅で雪の下の紅梅、白と蘇芳で梅、日本の伝統色であり春の襲の色目だった。
一方凛はというと、紅の上に黒を重ねたような紅消鼠の着流に生成の角帯、黒鳶色の羽織を重ねる。
ふたり並ぶと梅の花のようだった。
浴衣よりも先に着物を見てしまったと凛は思ったが、そんなことはどうでもいい位似合っている。
汐に流れる血はクォーターで和装よりも洋装のほうが似合う顔立ちであるが、その整った顔は和装に華を添えることとなった。
華やかさと淑やかさを備えた品のあるその姿は凛でなくても見蕩れてしまうほどだった。
「凛くん髪結うとすずめのシッポみたいだね!可愛い!」
そう言いながら汐は、黒い紐で結われた凛の髪に触れた。
「こら、解けたらどうすんだ」
ぶっきらぼうに牽制してしまった。
さっきから汐の姿に胸の高鳴りを抑えられない。
「解けたらあたしが結い直してあげるから大丈夫だよ!」
「…おう」
やはり無愛想になってしまう。
普段と一緒では味気ないと思って髪を結ってみたのだが、ヘアセットからメイク、着付けまで完璧な汐の隣に立つのは些か分相応でないように思えて仕方が無い。
釣り合わないのではないかと思ってしまう。
せっかくの旅行なのに暗い気持ちを抱いてしまって汐に申し訳ないという思いが芽生える。
それを見透かしたのか否か、それぞれを担当した着付け師が声を上げた。
「とってもお似合いですね!」