Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
「凛くんには兄弟とかいないの?」
「ん?あぁ、1つ下に妹がいる」
「妹?いいなぁ!名前はー?」
「江」
「江ちゃんかー。会ってみたいなー」
「今度会わせてやるよ」
汐を江に会わせたら、江はどんな反応をするだろうか。
喜ぶだろうか、それとももっと別の反応をするだろうか。
凛には想像が出来なかったが、少なくとも先ほどの夏貴のような反応をしないことは間違いないだろう。
汐と江がいずれ仲良くなってふたりで遊びに行く姿を想像すると、とても幸せな気分になる。
「今日はありがとな、楽しかった」
お互いの弟妹の話が一区切りつき、凛は今日のお礼を口にした。
ちょっとだけ汐のプライベートを見ることができて嬉しかった。と言おうと思ったのだがさすがに言うと変態くさくなってしまう。
だからそれは言わなかった。
「ほんとに?またいつでも来てね」
次は凛くんの好きなお茶用意しておくね、と汐は嬉しそうに頬を緩める。
「そうだな。けど俺は普通のデートとかもしてぇな」
「普通のデート?んー、映画とか?」
「そりゃすげぇ普通だな」
「なっ、普通のカップルっぽいことってそれしか浮かばなかったんだもんー」
「ま、いいけどよ...。普通のカップルっぽいことっていったら」
凛はなにかを思い出したかのように1度足を止め、そして手を差し出す。
「ほら、手」
つなごーぜ、と凛は手をひらひらと揺らす。
手をつなぐことを催促する凛に汐は満面の笑みを浮かべ、その大きな手を握った。
「じゃ、行こっか!」
手をつなぎ、ふたりは再び歩き始める。
9月の始め。空はまだ明るい。
凛の手が汐の手を包み込む。
身長同様、手も小さいことは知っていたがこうやって手をつなぐとそのことをより感じた。
「お前手、ちっせぇな」
「あーそれ、璃保にも言われた」
どうやら以前にも同じことを言われたことがあるらしい。
「背も小さければ手も小さいのね、って璃保言ってた」
凛が言おうとしていたことを先に璃保に言われていた。
「朝比奈のやつ、よくわかってんじゃねぇか」
「まあ璃保からしたらあたしは小さいかもしれないね」
「朝比奈限定じゃねぇだろ、お前がちっせぇのは」
「えーなにそれー」
「誰から見てもチビってことだ」
「だからー、あたしは標準だってー」
手をつないだまま汐はむくれる。
そのふくれっ面ですら愛しくて、凛の表情はほころぶ。