Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
「この人、だれ?」
顔は似てるが、性格は似てなさそうだと凛は思った。
「松岡凛くんだよ。あたしの彼氏くん」
「彼氏?僕、彼氏が出来たなんてひとことも聞いてないけど」
どこの厳しい父親かと思うような台詞だ。
「あ、ごめんね夏貴。言ってなかった」
「別に姉さんは悪くないけど…」
汐を庇うと夏貴はじろりと凛に視線を戻した。
値踏みをするように上から下から凛を見る。
人当たりのいい汐とは真逆の態度で、初対面でここまで嫌がられると流石にきつい。
失礼ながら本当に汐の弟なのかと疑いをかけてしまいそうな程の人相の悪さだ。
「夏貴、あたし凛くんを駅まで送ってくるから。お留守番お願いね」
「別に送りなんて…。…うん、わかった。いってらっしゃい」
送りなんていらない、と言いかけたのだろう。凛はため息をつきながら、扉を開けた汐の後に続いて家を出た。
扉が閉まる。夏貴は玄関にひとりになった。
靴を脱いで家に上がり、そのまま2階の自室へ向かう。
「松岡凛...」
夏貴にとって、この名前には聞き覚えがあった。
◇ ◇ ◇
「今日はあたしの家来てくれてありがとね」
門を閉めながら汐は凛に笑いかけた。
大きな家を背景に淑やかなワンピースを纏う汐。さながら名家の令嬢だ。
「汐お前弟いたんだな」
「うん。あれ、あたし言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ」
「そうだっけ、ごめんね」
「いや、別にいいんだけどよ...」
ついさっきまで一緒にいた汐の弟を思い起こす。
確か、汐は夏貴と呼んでいた。
さかみやなつき、凛と同様男なのに女みたいな名前だ。
それにあの顔。汐にとてもよく似ている。
あえて別の言い方をするならば、整いすぎた女顔。
黙って澄ましていれば、誰もが振り返る美貌だろう。
「汐の弟、中学生か?」
「あっ、夏貴でいいよ。そだよ。2つ下」
「...夏貴、いつもあんな顔してんのか?」
「あんな顔って?」
「だから、その、…人のこと睨むような...」
「あー、夏貴そんな顔してたの?ごめんね、あの子人見知りなの」
口ごもる凛をよそにいつも通りのあっさりとした口調で返す汐。
人見知りな奴はあんなにジロジロと人のことを値踏みをするような遠慮のない視線を送るのかと言いたくなったが、それを押しとどめた。