Destination Beside Precious
第12章 10.Don't Leave One Alone Ⅰ
江のスタートの合図で戦いが始まった。
両チーム第一泳者が飛び込み歓声が湧く。
「岩鳶の一泳速いわね」
璃保と汐の表情が変わる。
その眼差しは真剣で競泳強豪校スピラノの姿を見せる。
「真琴くんって確か専門はバックだったはずじゃ…」
「専門フリーじゃないの?それなのにあんなに差をつけるなんてすごいわね」
もうすぐ岩鳶は第一泳者の真琴から第二泳者の渚に引き継ぎをするところ。
鮫柄の第一泳者の中川とは大きな差をつけている。
渚がスタートしてから少しして鮫柄も引き継ぎにはいった。
鮫柄の第二泳者は似鳥。
「あの子、スタート膝曲げすぎね。練習し甲斐があるわ」
璃保はそう呟きながらレースを見つめる。
そして意表をつかれたように目を見張った。璃保の視線の先にあるのは飛び込み台に立つ御子柴の姿。
「鮫柄のアンカー、凛みたいよ」
「ハルくんと勝負、みたいだね」
レースが進むにつれ、会場の歓声も大きくなる。
鮫柄部員は必死に自チームを応援していた。
完全なる岩鳶のアウェイだが、それに負けじと鮫柄に対してリードを保つ。
岩鳶が第二泳者の渚から第三泳者の怜に繋いだ時、璃保が感嘆の声を上げた。
「飛び込みもバタフライのフォームも完璧ね。全く無駄がなくて美しいわ」
フリーリレーの泳法はクロールに限らない。
バタフライで泳ぐ怜に対抗意識を燃やした御子柴が飛び込み豪快なバタフライを披露する。
「あの力強い泳ぎ…あずみさんと同じだね」
「そうね。それにものすごく速いし…さすが鮫柄の部長ね」
汐と璃保がそんなことを話しているうちに御子柴が怜を抜いた。
そしてそのままターンに入りどんどん差を広げていく。
「次は凛の番ね」
「そうだね」
まるで自分のことのように緊張する。
汐は固唾を飲んでスタートの姿勢をとる凛を見守った。
(凛くん頑張って…!)
場内が大いに沸いたフリーリレーは僅差で鮫柄の勝ちだった。
「岩鳶の緑の水着の人かっこよくない?」
「えーわたしは青い水着の人のが好きだなークール系?」
「あたしは絶対鮫柄の赤い水着の人がいい!」
ふたりの近くで見学に来た他校の女子が騒いでいた。
女子の視線を集めたのは真琴、遙、凛の3人だ。
他のメンバーの話も上がるが3人が飛び抜けて人気だった。
中には後で声かけようかと話している女子もいた。