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Destination Beside Precious

第12章 10.Don't Leave One Alone Ⅰ


「あ、凛こっちに気づいた」
視線を下にやると、凛がこちらを見ていた。
声を掛けようか迷ったが凛は部活中だからそれを弁えて軽く手を振るだけにした。
汐が手を挙げて挨拶をすると凛はその愛しい鮫歯を見せて笑った。

「声かけなくていいの?」
「うん。凛くん部活中だし。それにあたしたちの仲を知ってるの、鮫柄では愛ちゃんだけだし」
「愛ちゃん?」
「似鳥愛一郎くん。凛くんのルームメイト。ほら、あの銀髪の子」
「ああ」
似鳥の存在を認知した璃保は目で追いながら可愛いじゃない、と洩らす。

「あ、江ちゃんもいる」
「今度は誰?」
「凛くんの妹ちゃんだよ」
「凛ってあんなに可愛い妹いたの?」
「ねー。江ちゃん本当に可愛い」
江もこちらに気づいたようで、汐に向かって勢いよく手を振った。
それに応えて汐も手を振り返す。

「あたしも江ちゃんみたいな妹ほしかったなー」
「そんなこと言ってると夏貴が泣くわよ」
「それ、前凛くんに同じこと言われた」
夏貴とはまた違う形で自分のことを慕ってくれる江。
汐は実の妹のように可愛がっていた。
つい1ヶ月ほど…バレンタインの少し前に料理を教えて欲しいとお願いされて汐のお料理教室を開講した。
江はちゃんとその成果を発揮することが出来ただろうか。


「追い出し試合ってあれよね、伝統の…」
「100m100本勝負。部長に勝つまで続けるっていう」
「めちゃくちゃねぇ…。そういえば翔兄もやったって言ってたような…」
「翔兄のときもあったんだ。本当に伝統なんだね」
翔兄とは璃保の兄で朝比奈翔太郎のこと。朝比奈家の次男で鮫柄水泳部の6代前の部長にあたる。

「翔兄はまだ水泳やってるの?」
「あー、やってないわ」
「大学卒業で辞めちゃったんだ」
翔太郎はインカレ常連のスイマーだったから、勿体ないと汐は思った。

「辞めたっていうか、背中に墨入れたから普通のプールじゃ泳げなくなったっていう方が正しいわね」
璃保の言葉に汐は目を伏せる。失言だった。
朝比奈を主体とする組は裏社会を生きる一族。
背中に刺青を入れたということはつまり〝そういうこと〟だ。

「ちょっと、汐。なんて顔してんのよ。汐が気にすることじゃないわ。仕方の無いことだもの。…あ、始まるわよ」
璃保に背中を叩かれて顔を上げた。
御子柴の威勢のいい声が響き渡る。

鮫柄の伝統、追い出し試合の幕開けの合図だった。
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