Destination Beside Precious
第12章 10.Don't Leave One Alone Ⅰ
「はよ、汐」
「璃保おはよー」
鮫柄の正門の前に立つ璃保は汐の姿を見つけると声をかけた。
さすがに制服だけではまだ寒い。ふたりともコートを着込んでいた。
「ふわふわー」
「アンタいつもそれ触るわね」
璃保のコートについているファーを汐は撫でる。
リアルファーがあしらわれたコートは汐も持っているが、璃保のコートについているファーの触り心地が好きだった。
「ミンクだっけ、これ」
「そ。祖父さんが送りつけてきた。寒いから制服の上に着なさいって」
ミンクの毛皮がついているコートを制服の上にさらりと着こなす女、朝比奈璃保。
「祖父さんは目に見える高いものをやたらプレゼントしたがるの。手入れが大変だわ。さ、行くわよ」
「鮫柄って広いねー」
「スピラノも似たようなものじゃない」
正門を抜けてふたりはプールまで向かっていた。
「夏貴はいつから高校の練習に参加するの?」
「えーと、明日からかな?」
「そう。たしか全中の4コメ2コメの金メダリストだっけ?彼らにとっても夏貴はいい刺激になりそうね」
「先輩たちとうまくやってくれればいいけど」
「そうね。…あーやってるやってる」
そんなことを話していたらいつの間にかプールに到着した。
プールサイドの床に面した小さな窓から璃保は中の様子を窺う。
「見えないー届かないー」
ちょうど璃保の身長で見えるくらいの高さだから、それよりも15cm以上背の低い汐には見えなかった。
自分の隣でジャンプしながら中の様子を覗こうとする汐が可笑しくて璃保は笑いながら汐の頭をぽんぽんと叩いた。
「汐、そんなにジャンプしたらパンツ見えるわよ。アタシが凛に怒られるじゃない。中入りましょ」
プールの建物の中に入り観覧席として設けられた2階へあがると先客が少なからずいた。
OBと思われる人や他校の選手たち。それに紛れて鮫柄水泳部と何ら関係なさそうな女子たち。
「女の子もいるんだね」
「そうね。鮫柄が一般公開されるなんて珍しいからイケメンを物色しに来たんじゃない?」
鮫柄はスポーツ強豪校として名が通っている。
アスリートには顔が整っている人が多い。それに鮫柄は規則が厳しく閉鎖的な学校で今日のように一般公開するのは珍しい。
男子校は出会いが少なく女日照りに陥りかねない。
だから今日の一般公開に出会いをほのかに期待している部員もいるだろう。